経営基本用語

2012/04/08

「14の決算書基本用語集」

1.貸借対照表
・貸借対照表から資金の運用・調達状況をつかむ
 貸借対照表はバランスシート(B/S)ともいわれ、これは期末における会社の財産内容または財政状態をまとめた一覧表です。
 会社の財産は、すべて資金により購入したものですが、その資金は、出資者による自己資金と借入金など他人からの資金でまかなわれています。

 
/Sでは、会社の財産を資産といい、これには現金・預金と商品在庫、店舗設備などが含まれます。また、自己資金を純資産(B/Sでは純資産合計)、他人からの資金を負債といい、純資産は資本金と内部留保(準備金と剰余金)をあわせたものをいいます。負債には、仕入債務と借入金、社債などが含まれます。

 
見方を変えると、負債・純資産(B/Sの右側、貸方)からは、事業資金をどこからいくら調達したか、資産(左側、借方)からは、その資金をどのように使ったかがわかるのです。

 
こうして、資金の出どころと使いみちが一目でわかるよう、資産合計=負債・純資産合計のかたちで左右対照の一覧表にしたものが貸借対照表なのです。

 

・決算書をつくる目的は外部報告と内部管理
 会社は毎年、年度末に財産のあり高をつかみ、また、1年間(中間決算は半期)の売上高とそれに要した費用を計算して、その年(会計期間)の経営成果をまとめます。そこで期末には、かならず会計記録を集計して決算をし、手持ち財産と業績を正しく計算しなければなりません。

 
決算書は、貸借対照表と損益計算書およびキャッシュフロー計算書(上場企業)の3本柱で構成され、これらは財務諸表とも呼ばれています。いわば、株主や債権者、銀行、税務署など外部関係者に報告する会社の成績表ともいえるでしょう。

 
ですから利害関係者が判断を誤らないよう、公正な会計ルール(商法、証券取引法、企業会計原則)にしたがって、真実の情報をまとめ提供しなければなりません。重要な会計情報を隠したり、利益の過大表示(粉飾決算)や過小表示(逆粉飾)をすれば、犯罪行為となることはいうまでもないことです。

 
そのほか決算書は、会社内部の意志決定やマネジメント(経営管理)のための経営情報として、今日では事業活動の計画・統制に欠かせない重要な資料となっているのです。

 2.損益計算書
・損益計算書から儲けの原因と結果をつかむ
 
損益計算書(P/L)は、一年間(中間決算は半年)の営業成果をまとめた一覧表です。いくらコスト(費用)をかけてどれだけ稼ぎ(収益)、さし引きいくら儲かったのか(利益)。会社の業績について、儲けの原因と結果が収益-費用=利益の順に示されます。

 
/Lの大事な数字を5つ挙げれば、売上高と売上総利益(総利益ともいう)、営業利益と経常利益および当期純利益となるでしょう。それぞれ利益の源泉がどこにあるのか、収益と費用の対応関係からしっかりつかむことが重要なのです。

 
たとえば、総利益が減ったのは売上低下によるのか原価上昇か、また営業利益がふえたのは、総利益増加によるのか販管費節約かなど、変化の原因をよく考えなければなりません。

・売上総利益と営業利益の獲得は営業サイドの責任
 
営業活動の結果はすべて営業利益に集約されるので、この利益責任は営業サイドにあります。いかに収益を増やし費用(コスト)を減らして、営業利益を大きくするか。P/Lを読めば、総利益改善と経費効率化の問題点がはっきりするはずです。

 
営業外損益には受取利息・配当金や支払利息など、金融活動による収益と費用が含まれます。また特別損益には、固定資産売却や財テク損益、バブル後遺症による不良資産の処理など臨時特別の損益が表れます。これは経営陣と財務部門の責任範囲といえるでしょう。

 
このように数字の羅列にみえる決算書も、その骨組みと読み方のコツを覚えれば、会社の実態が一目でわかるから面白いのです。5つか6つの大事な数字を、頭から3~4ケタで読めば覚えやすいでしょう。着眼大局、着手小局で、まず全体像をつかむことが大切なのです。

 
大きな数字に異常を感じたら、つづいて小項目のこまかい数字に目を移し、その原因を探っていけばよいでしょう。決算書がすらすら読めれば、会社の数字に強くなれます。計数感覚を磨くのは、有能な社員になるための必須条件なのです。

 3.資産と負債
 ・会社は負債・資本を事業資産に変えて収益を上げる
 会社はこの資本で商品や店舗設備を購入し、人と経費を使って販売活動をおこないます。つまり、自己資本と他人資本(負債)が事業資産に変身し、収益を上げる仕組みなのです。 

 です
から、少ない資産でより多くの売上を稼ぐのが、資産効率のよい会社ということになります。また、自己資本が多く負債が少なければ、会社の足腰は丈夫で安泰といえるでしょう。

 
資産は、1年以内に現金化する流動資産と、現金化しない設備などの固定資産にわかれます。負債(債務)もおなじく短期に支払う流動負債と、長期に返済する固定負債があります。純資産合計は返済不要の自前の資本なので、自己資本とも呼ばれるのです。

・貸借対照表から支払能力と財務基盤がわかる
 
会社が存続するには、支払能力を確保し健全な資本構成を維持しなければなりません。

 
支払能力は、流動資産と流動負債のバランスおよび手持ち現金・預金の大きさ、資本構成は、自己資本と負債のバランスおよび有利子負債(借入金と社債)の大きさから、その良否を判断します。

 
過大な在庫と設備は資産を膨らませ、他方では借金や社債を増やします。有利子負債は、元利返済の負担により財務基盤を悪化させます。とくに自己資本が少ない会社が、店舗の積極拡張路線をとるときはこの点に注意する必要があります。

 
会社の足腰の強さは、自己資本と固定資産とのバランスからもわかります。設備投資に自己資本が不足すれば、結局は負債に依存するからです。

 
また資金繰りが忙しい会社は、流動資産に比べて流動負債が多くなります。最悪の場合は、赤字が累積して負債超」に転落し、資産より負債のほうが多い(純資産合計はマイナスとなる)倒産状態になるから要注意です。

 
自己資本の充実は、勝ち残りのための必要条件ですが、時間がかかるため計画的かつ段階的改善が必須となるのです。財務の評価には、自己資本増減のチェックを忘れてはなりまません。 

 
資産は、商品や設備など商売に必要なモノであり、負債は、仕入債務や借入金などの他人資本です。商売には元手となる資金がいりますが、資金は、自己資本(純資産合計)と他人資本(負債)により調達されます。

 

4.減価償却費と内部留保
 ・減価償却はコストと資金源泉の二つの顔をもつ
 
自社所有の建物や店舗設備などは、時間がたてば摩耗し消耗します。その資産の目減り分を、耐用年数におうじて評価計上する会計処理が減価償却です。 

 
価償却費は、P/Lの販管費(経費)に計上しますが、実際には「現金支出のない費用」です。代金はすでに設備購入時に支払いずみだからです。

 
これはまた、多額の購入費を長期間にわけて毎年平均化し、各年度の収益と費用を無理なく対応させる方法でもあります。費用をすべて設備の購入年度に一括計上すれば、その年の決算は収入に比べて費用が多くなりバランスを崩すからです。設備はB/Sの固定資産に計上し、減価償却費の金額だけを毎年減額するのです。

 
費用は販売活動により回収されるので、計算上は、減価償却費に相当する現金(キャッシュ)が手元に残るはずです。そこで、減価償却費と留保利益をあわせたものを自己金融(狭義のキャッシュフロー)ともいいます。

 
自己金融は会社が自力で創りだした資金余裕です。この資金の範囲なら、店舗拡張や設備投資は問題ないし、銀行からも安心して借金ができるでしょう。

 
減価償却費は、自己金融とみれば資金源だから大きいほうが望ましく、経費とみれば負担要因だから小さいほうがよいことになります。元気印の会社と不振企業では、それぞれ対応の異なる二面性がみられるわけです。

・内部留保はコストのかからない理想的な追加資本
 
税引後の当期純利益は前期の繰越利益とあわせて、その一部を株主配当や自社株購入のために配分し、残りは社内留保(利益剰余金)して自己資本(純資産)を追加拡充します。

 
会社が自己資本をふやすには、内部留保によるか資本金を増資するほかに方法はありません。株式増資には配当金という資本コストがかかりますが、内部留保はコストのいらない追加資本です。これは、自己資本を蓄積するもっとも望ましい姿といえるでしょう。

 
他人資本(負債)依存型の会社は、外部流出をなるべく抑えて内部留保を積みまし、まず財政基盤を固めなければなりません。不況抵抗力をつけるにせよ新事業分野へ進出するにせよ、先立つものは資金力ですから、資本蓄積を第一に心掛ける経営が大切なのです。

 
もちろん、一定の配当金は株主に対する経営責任であり、その目標達成は至上命令といえます。また最近は、企業理念として経営成果の社会還元が求められています。そうした社会的課題にも、前向きに取り組むことはいうまでもないことです。

5.営業収益と売上高
 ・営業収益は商品売上とサービス収入の合計
 
スーパーストアの収益の柱は商品売上高ですが、ほかにテナント料(不動産賃貸料)などサービス収入があるときは、それらをあわせ営業収益と呼んでいます。その場合売上高は、サービス収入をのぞいた商品だけの売上を意味します。

 
また、売上原価と販管費をあわせた費用を営業費用と呼び、営業収益-営業費用=営業利益となります。上場企業の有価証券報告書では、一般的な売上高-売上原価=売上総利益のほかに、とくに営業収益-売上原価=営業総利益の数字を計上することがあります。つまり「営業総利益=売上総利益+サービス収入」の関係になることがわかるでしょう。

 
サービス収入は売上原価を要しないことが多く、収入そのものが売上高より総利益に近いのです。P/Lに営業収益や営業総利益を示し、それぞれ商品とサービスの収益・費用をどう対応させ、計上するかの便法ともいえます。会計上の統一基準がないため、各企業がそれぞれ独自の表示方法を工夫し採用しているようです。

 
コンビニではゲームソフトの収益が大きく伸びているように、今後スーパーでも、流通金融などによるサービス収入は増大するでしょう。売上高よりサービス収入が急速に拡大すれば、営業収益や営業総利益も見逃せない数字となるはずです。

・決算情報は株主には営業収益基準、営業マンには売上高基準が役立つ
 
決算が終わると株主には、経営方針と経営成績および財務諸表(単独と連結)を含む決算短信(決算報告書を十数ページ程度に要約したもの)が提供されます。

 
またごく簡単な決算内容は、決算の要旨として新聞・官報に公告されます。毎年その時期には、決算記事や業界情報が新聞・業界紙をかざるのが通例です。

 
例えば、”スーパー上位10社の××年度(00年2月期)決算は、7社が減収で7社が経常減益となった。このうち既存店売上高は全10社が前年実績を割りこみ、各社とも客単価が大きく前年を下回った。”

 ”
前年同月比の減収率は、イトーヨーカ堂8%(全店は3.5%)、ユニー7.3%(同1.9%)など。とくにGMSは、荒利益の高い衣料品が競争激化による不調で、利益源泉としての役割を果たさなくなっている。”

 
一般に増収・減収は売上高の増減を、増益・減益は経常利益の増減をさします。しかし、株主など外部関係者には営業収益と当期利益が、社内の店長や営業マンには、売上高と営業利益、経常利益のほうが注目されるはずです。どちらの基準によるのか、字句表現や注記をよくみてから判断しなければなりません。

 
自社ははたして増収増益か減収減益か、それは現場の実感と一致するか。減収と減益の理由は何か。さらに、建設的アイデアや改善意見がだせるようなら、あなたは会社に欠かせない貴重な人材といってよいでしょう。

 6.売上総利益率と営業総利益率
 ・売上総利益率は販売力と商品力で儲ける力
 
売上高から売上原価を引いた儲けが、売上総利益(総利益、荒利益ともいう)です。売上総利益率は、売上高に対する総利益の割合ですから、販売力と商品力で儲ける力を表します。

 
売上高はお客から預かった仮の儲けで、原価(コスト)を支払った残りが本当の儲けです。このケジメをしっかりつけることが、経営の出発点といえるでしょう。預かったお金を自分のものと勘違いして手をつけるから、自転車操業や経営破綻に陥るのです。

 
売上原価=期首在庫高+当期仕入高-期末在庫高(=当期仕入高-在庫増加高)から、在庫がふえると原価が下がり、荒利益がふくらみます。不良在庫を抱えると、利益と税金がふえる会計の仕組になっているのです。これは一種の落とし穴だから要注意です。在庫増加はコストとならず、貸借対照表の流動資産(利益)になるからです。

・営業総利益率は商品とテナント料を合わせた採算性
 営業収益営業総利益=営業収益-売上原価(=売上総利益+サービス収入)となります。営業総利益率は、営業収益に対する営業総利益の割合ですら、これは商品とサービスをふくむ営業力の儲ける力をしめしています。

 小売業では、売上総利益は商品販売による付加価値、営業総利益はサービス関連をふくむ全社の付加価値とみてよいでしょう。サービス収入は仕入原価(直接原価)がほとんどないため、将来この分野が拡大すれば、全体の付加価値率を高める効果が期待されます。

 
スーパーもコンビニも今後は、総菜の加工販売、ゲームソフトや各種チケットの提供、公共料金の取り次ぎなどで高付加価値化をめざす動きは必死でしょう。また流通金融業務へ進出すれば、サービス収入の割合が急伸することは間違いありません。

 
サービス収入については直接・間接コストを明確にし、収益・費用を正しく対応させて、稼いだ付加価値を正確につかむことが将来の課題といえます。必要な経営情報がなければ、的確でスピーデイーな経営判断も効率的なマネジメントも難しいからです
 

7.営業利益と販管費分配率
 ・営業利益は本業の活動成果のバロメーター
 
売上総利益(荒利益ともいう)から販売管理費(販管費と略す)を引いた残りが営業利益です。これは、本業の営業活動による成果判定のバロメーターです。

 
会社はともかく営業利益を確保するため、社内をあげて全力投球をしなければなりません。満足水準の営業利益が獲得できなければ、経営者は失格も同然、また部門管理者の責任は重大といってよいでしょう。

 
売上総利益-販管費=営業利益から、本業の成果である営業利益は、稼ぐ荒利益と使う経費コストのバランスに左右されることがわります。

 
売上総利益と営業利益の大小は、商品政策と店舗運営、社員の働き方によって決まります。2つの利益の関係から4つの経営パターンが考えられますが、自社の位置づけを知り、有効な対応策を検討しなければならなりません。

・儲かるわりに経費が少ない「利益体質型」(荒利益大/営業利益大)、
・儲かるが経費も多い「放漫経営型」(荒利益大/営業利益小)、
・儲けは少ないが経費を節約する「内部管理型」(荒利益小/営業利益大)、
・儲けは少ないのに経費が多い「慢性赤字型」(荒利益小/営業利益小)。

・販管費分配率は付加価値にしめる経費割合
   
販管費はいわゆる経費のことで、売上原価を第1のコストとすれば、販管費は第2のコストです。販管費をつかむ経営比率には、販管費比率(売上高に対する販管費の割合)と販管費分配率(売上総利益にしめる販管費の大きさ)の2つが考えられます。

 いずれの数字も低いほうがよい比率です。積極的な販売活動を展開するには、それなりの経費コストがかかります。しかし油断をすると、経費は硬直化しふくらみます。きびしい市場環境に柔軟に対応していくには、ローコスト経営の身軽な体質に変えることが欠かせません。

 
それには、販管費をさらに人件費と販売費、管理費、物流費にわけ、それぞれ比率を分析しながら経費の効率化をはかる必要がある。

 
市場が成熟し競争が激しくなると、荒利益は低下していきます。仕入原価の削減は、外部に交渉相手のあることですが、販管費の節約合理化は、社内の取りくみ次第で直ちに実現できることが少なくありません。みずからの創意工夫で経費を抑制し、ともかく営業利益を絞りだすことが至上命令といえるでしょう。

8.経常利益と営業外収入
 ・営業利益と営業外損益を合わせると経常利益になる
 
会社には、本来の営業活動のほかにも収入と支出があります。たとえば受取利息・配当金や販促協力金などの営業外収入(収益)と、支払利息・割引料や株式公開費用などの営業外支出(費用)がそれです。

 
株式や社債など売買目的の短期有価証券(流動資産)については、その売却損益は営業外損益となります。しかし、関連会社の持合い株式など長期有価証券(B/S上の投資)の売却損益は、後述の特別損益に計上されます。

 
営業利益に営業外損益を加減した残りが経常利益です。これは毎期の、経常的な事業成果を表す利益です。営業外損益は金融・財務活動に派生するものが多いので、これは営業部門の責任というより、経営陣と財務部門の守備範囲といえるでしょう。

 
営業利益と経常利益の差額については、借金体質や財テク資産の評価結果(益出し)、関連会社からの配当金がはっきり表れるので、注目すべき大事なポイントといえます。

・営業外損益から財テク収入と金融負担の大きさをつかむ
 
問題は、汗水流してせっかく稼いだ貴重な営業利益を、金融費用や財テクの「含み損」により食いつぶす脆弱な財務体質かどうかにあります。

 
営業利益が大きいのに経常利益が極端に小さい場合と、営業利益が少ないのに経常利益が大きいケースがあるので、その理由をよく確かめなければなりません。前者は借金・社債による金融負担過大か、負の財テク遺産をかかえる企業。後者は株式・債券など、含み資産の売り食い経営が多いからです。

 
経常利益を確保するには、営業利益を大きくする一方、営業外支出を圧縮する必要があります。それには、
①高付加価値・高利益経営をめざし自己資本を充実する、
②経営体質をスリム化し借金など有利子負債をへらす、
③店舗設備の稼働率を上げ人的生産性(1人あたり荒利益)を向上する、
などの方向が必要な対応策となるでしょう。

 9.当期利益と特別損益
 ・当期利益は配当金と内部留保の原資になる
 
営業外損益のほかにも、会社には「臨時・偶発的な利益や損失」が生じます。そこで、土地や設備および子会社株式などの売却益は特別利益、設備や長期有価証券の売却損と貸し倒れ損失、災害損失などは特別損失に計上します。

 
経常利益にこの特別損益を加えたものが税引前当期純利益です。ですから税金を払った後の当期純利益は、決算期間における会社全体の最終利益ということができるでしょう。

 
そして、その一部を株主配当と自社株購入などに分配し、残りは社内に留保して自己資本を追加蓄積(追加資本)するのです。

 
最終利益を含む利益剰余金は配当金の原資ですから、株主の関心を集めるのは当然のことです。会社の存続・成長と出資者への配当など、外部流出と内部留保のバランスを考えた剰余金の分配は、株主総会(または一定の条件で取締役会)で決議し決定することになります。

・特別損益から経営判断と会計方針が察知できる
 
実際には、この特別損益の会計処理が意図的かつ合法的におこなわれ、当期利益を加減するケースが少なくありません。水ぶくれ利益を計上する粉飾まがい決算や、資産の評価損を計上して利益を合法的に圧縮するなど、手口はさまざまです。

 
バブル後遺症の後始末のため、含み資産の売却損益や不良債権の償却があれば、ここに具体的な数字があらわれるから十分チェックする必要があります。

 
経常利益と当期純利益を比べながら特別損益の中身を検証すれば、経営陣の経営判断と財務部門の会計方針を読みとることができるでしょう。

 
老朽設備や不良資産を圧縮し減量経営をめざしているのか、経営が苦しいため資産の含み益を当てにしているのではないか、積極的にゼイ肉を落とし改革を進めようとしているのかなど。その内容から、経営改革や体質強化への姿勢が推測できるはずです。

 
ひとくちに経営再構築といっても、実質は前向きと後ろ向きのリストラがあります。こうした決算数字の背景から、会社の方向性を察知することが大切なのです。

 10.連結決算書
 ・企業グループの業績と財政状態を連結決算で一本化する
 事業の多角化や分社化、国際化が進むなかで、広範多岐にわたる企業活動の姿を正しくつかむには、単独決算とあわせ連結決算が重要になってきました。そこで上場企業には、連結決算書の作成と情報開示が義務づけられたのです(2000年3月期から)。

 これにより
、株式の持合いや子会社を利用した飛ばしなど、財務内容が明るみになります。企業集団の透明性が高まると、実力が評価される企業と淘汰される企業がきびしく選別され、業績不振の子会社は当然、グループ外しか消滅の指弾をうけるでしょう。

 
業績評価が連結中心に変わると、グループ全体で事業の最適組み合わせを考え、企業価値を高めていくかなければなりません。それには業態別、地域別セグメントの採算管理を徹底し、得意分野へ経営資源を集中投下することが不可欠です。
 
親会社と子会社をふくむ企業集団を一つの会社とみなし、グループ全体の業績と財産内容を集約し一本化するのが連結決算なのです。


・資本を連結し内部取引による損益を消去する
  連結貸借対照表(連結B/S)は、決算時点における連結企業グループの財政状態をまとめた計算書です。勘定科目の配列は単独決算書とあまり変わりませんが、3つの基本原則をふまえてつくられます。
①資本連結
親会社の投資勘定(子会社株式、出資金)と子会社の資本勘定を相殺消去する、
②債権・債務の相殺消去:グループ企業間の債権(売掛金、貸付金など)と債務(買掛金、借入金など)を相殺消去する、 
③未実現利益の消去: 仕入商品や購入設備にふくまれる未実現利益を消去する。

 
なお、親会社単独の業績に対する連結業績の倍率を連単倍率といいます。売上高や利益の連単倍率が1より小さければ、グループ内の垂直的取引が多く、不振企業を抱えていることがわかるのです。

 
連結損益計算書(連結P/L)は、企業グループの一定期間の経営成績を総合し、収益・費用・利益のフローでしめす計算書です。親会社と子会社の個別P/Lを合計し、3つの基本原則をふまえてつくられます。
①内部売上の消去:グループ企業間の売上と仕入(売上原価)を相殺消去する、
②配当金の消去:親会社の受取配当金と子会社の支払配当金を相殺消去する、
③内部利益の消去:商品在庫と固定資産にふくまれる未実現利益を消去する。
 

 11.連結子会社と持分法
 ・子会社は全部を、少数株主は持分だけを連結する
 
連結決算の対象となる企業は、まず連結子会社です
 
子会社とは、議決権の51%以上をもつか(持株基準)、議決権の4050%をもちかつ取締役会の過半数をしめるか、または財務や営業の方針決定を支配する会社(支配力基準)をいいます。また孫会社(子会社の子会社)は、子会社とおなじ扱いとなります。

 
つぎに、少数株主の持分(権利と負担)を連結決算に取りこみます。少数株主とは50%未満の外部株主(子会社の)で、それに帰属する権利が少数株主持分です。子会社の経営権は、議決権の過半数をもてば100%支配できます。しかし純資産と利益の分け前については、少数株主がいれば持株比率におうじた権利が生じるため、これを無視するわけにはいきません。

 
連結決算の手続きは、はじめに100%所有とみてグループ企業の決算書を合算するので、あとで少数株主持分を親会社持分と分けて計算し、連結決算書に反映させるのです。

 
少数株主の純資産は、連結B/Lに少数株主持分の項目を独立して計上します。また 当期純損益は、連結P/Lに少数株主利益(または損失)として明示します。

・関連会社は持分法により連結する
 
 関連会社と非連結子会社(持分法適用会社という)は、持分法を適用するのが連結原則です。これは純資産(資本合計)と損益のうち親会社持分だけを連結するもので、それ以外は連結しません。

 
関連会社とは議決権の2050%をもつか(持株基準)、または1520%未満でも取締役以上の要職につくか、負債の大半を融資するなど大きな影響力をもつ(影響力基準)会社をいいます。

 
非連結子会社とは、子会社のうち重要性の低い小規模会社、一時的所有の子会社または全部連結をすると利害関係者が情報の判断を誤るおそれのある会社です。

 
連結子会社の場合は、売上高や資産、負債を全部連結しますが、持分法では、持分比率におうじて親会社の分け前だけを部分的に連結するのです。これにより、重要性の低い会社を連結決算に反映させ、全部連結を補完するわけです。

 12.キャッシュフロー計算書と3つのキャッシュフロー
 ・発生主義から現金主義に変えてキャッシュの流れをつかむ
 
帳簿上の損益計算と実際の現金収支とが合わないため、資金繰りに苦労する会社は少なくありません。これは、発生主義会計現金主義会計との違いが原因です。 

 売上があっても、売掛金や受取手形はすぐには現金化しません。仕入れも、買掛金や支払手形なら現金はいりません。現金の収支を正しくつかむには、こうした信用取引や減価償却費、引当金などの非資金項目(現金授受のない費用と収益)をのぞく必要があるのです。

 つまり、発生主義による決算数字を現金主義になおして、キャッシュ収支をだすのです。キャッシュとは、現金と要求払預金(当座預金、普通預金、通知預金)をいいます。

 発生主義会計は、会計処理の仕方次第で利益が変わえります。そこで帳簿上の利益ではなく、事実上の現金を尺度として会社の資金繰りや資金計画、事業採算を考えるのがキャッシュフロー会計なのです。

・営業・投資・財務活動にわけてキャッシュフローを計算する
   
キャッシュフロー計算書(C/F)では、3つの活動にわけて現金の増減をだします

 営業活動によるCFは、本業の生産・販売活動により生みだした現金で、プラス(入超)になるのが普通です。
 投資活動によるCFは設備投資や株式投資で、通常はマイナス(出超)となります。 
 財務活動によるCFは借金や増資などの資金調達で、これは営業CFと投資CFの均衡によりプラスかマイナスかに振れます。

 国際会計基準の導入により、2000年3月期から有価証券報告書に(連結)キャッシュフロー計算書が加わりMした。上場企業の決算書(財務諸表)は、これで3本柱となったわけです。

「損益計算書」で収益-費用=利益のフローを、「貸借対照表」で資産=負債+資本の財産ストックを、そして「キャッシュフロー計算書」でキャッシュの動きをつかみ、株主など利害関係者に情報開示しなければなりません。

 13.税効果会計
・会計と税法のズレを調整し税金コストを平均化する
 
一般に税法による税額は、利益にもとづく税額(法人税等)とは異なります。
 
たとえば、法定限度をこえる減価償却費や引当金、不良債権処理は、会計では費用ですが税務では損金とはならず、税金がかかります(有税償却)。そこで課税所得の調整により、税金の前払いと後払いが生じるわけです。

 税効果会計とは、企業会計と税法による納税時期のズレを調整し、前払税金・後払税金(繰延税金資産・負債)をだして、毎期の税負担と収益を平均化する方法です。これは支払時期を繰延べる方法ですから、納める税額が変わるわけではないのです。 

  これには、課税所得を調整し「法人税等調整額」をP/Lに示す「繰延法」と、利益積立金を修正し「繰延税金資産・負債」をB/Sに示す「資産負債法」の、2つのアプローチと会計手続きが必要となります。

・株主重視の業績評価と不良債権処理のメリット
  税効果会計は、決算上の利益と税務上の税額とを関連づけ、業績に見合う適切な税金コストをつかむ方法です。

 しかも、税引後利益を重視した業績評価ができるから、株主には大事な判断基準となります。また自己資本の低下を避けながら、不良債権処理が進められるメリットもあります。銀行融資や社債発行の際には、税効果を反映させた財務諸表の提示が求められるでしょう。

 
ただし、前払税金の回収期間が長くなれば、あとで戻る税金は見積もりが難しくなります。収益予想が不確実で、将来減算するはずの課税所得がなければ、税効果はえられません。

 利益と自己資本のかさ上げにも、乱用の歯止めが必要でしょう。そこで、税金の回収期間は5年以内、3年連続欠損で今期も赤字企業には適用しない、業績予測は取締役会で承認するなど、税効果会計の適正な運用指針ができたのです。

 14.有価証券と年金会計の時価評価主義
 ・金融資産は市場価格で評価し公開する
  
時価会計とは、B/Sの資産と負債を市場価格(時価)で評価計上する会計方法です。

  売買目的の株式など短期所有の有価証券金融派生商品(デリバテイブ)は2001年3月期から、企業間の持合い株式は、2002年3月期から時価会計が適用されます。 原価基準から時価基準に評価が変わると、金融資産の含み損益(時価と購入価額との差額)を決算書に計上しなければなりません。

  また、デリバテイブ取引の簿外処理(オフバランス)ができなくなり、塩づけ状態の含み損益が表面化(オンバランス)します。
これまで土地や株の含み益をあてにしてきた経営や、不良債権問題に苦しむ企業は、時価会計の導入により大きな影響を受けるでしょう。

  その結果として、含み益による毎期決算の損益調整ができなくなる、時価基準による企業間比較が容易になりROA・ROE重視の経営にむかう、株式持合いの解消とリース資産の利用がすすむことが考えられます。

・退職給付の責任額を時価換算しオープンにする
   
一方、2001年3月期から年金会計が導入されました。
 年金会計(退職給付会計)とは、退職給付(退職金や企業年金の総称)について包括的な会計処理をし、透明性を高める制度です。それには、すべての従業員が将来、確実に退職給付が受けられるよう、必要額を時価換算して費用に計上しなければなりません。

 
多くの企業では、退職一時金は引当金を計上し、退職年金は掛け金を外部拠出しています。いままで簿外債務としてきた年金資産の目減り分(隠れ債務)が、時価会計により表面化するわけです。引当金や責任準備金は、新しい基準では不足額が生じるため、それをどう埋め合わせるかが大きな問題となってきます。

  そこで、3つの対応策が想定されるでしょう。特別損失を計上し赤字をだしても一気に処理する、持合い株式を退職給付のための信託に拠出し不足分を補う、決算利益により15年間の分割払にする、などです。

 
企業は負担に歯止めをかけるため、退職給付制度や人事制度にメスを入れることは確かです。退職金の前払制度や確定拠出型年金(日本版401K)の導入も進んでいる模様です。

 

2012/05/16

「14の経営評価基本用語集」

1.売上高増加率と売場面積増加率
・売上増加率と面積増加率を比べ売場効率の変化をつかむ
   
売上高増加率は、前期売上高に比べ当期売上高がいくら増えたかを見る比率です。これにより1年間の伸びかたがわかります。
   売場面積増加率もおなじく、前期の売場面積に比べ当期はいくら増えたか、1年間の伸びかたを見る比率です。
 
   売上増加率が面積増加率より大きければ、売場効率(坪あたり売上高)は改善されたことがわかります。その反対に、売上増加率が面積増加率よりも小さければ、売場効率は低下したことになります。
 売場は店舗設備の一部ですから、売場効率は設備回転率(売上高÷設備資産)を意味します。これを改善することは、事業投入資本を効果的に使っているかどうかにつながる重要な問題なのです。

 ・背水の陣でのぞむスーパー各社の出店攻勢
   スーパー各社は、長びく消費低迷と競争激化のなか、背水の陣ではげしい出店攻勢にのぞんでいます。
  その背景には、大規模小売店舗立地法(2000年6月施行)により当面は出店が難しくなること、さらに、
既存店の低迷を新店舗の売上増でカバーしなければならない苦しい事情があります。
   大手スーパーでは、既存店のテコ入れだけで売上を伸ばすには限界があり、新規出店をしなければ売上低迷に歯止めがかからないからです。

  しかし出店競争の展開は、2つのリスクをはらんでいるのも事実です。売場効率の低下をさらに加速させないか、有利子負債の膨張が財務体質を悪化させないかという不安があります。
   そのため、総合スーパー(GMS)より食品専門スーパー(SM)の出店を拡大戦略の中核に位置づけ、資本の早期回収と収益への貢献をねらうケースが多いのです。

 2.既存店売上高伸長率
・既存店の業況から新旧店舗の業績を比較する

  既存店売上高伸長率は、新店をのぞく既存店だけの売上高が、前年に比べいくら増えたかを見る数字です。
  これにより、既存店のリニューアル活性化と不採算店の撤退による売上高の変化がわかります。また、全店の売上増加率とこの数字との差異を読みとれば、新店舗による売上貢献の状況がつかめるでしょう。
  

   市場成熟化と景気停滞のもとで、積極出店の拡大路線は増収減益になりかねません。投下資本の回収がすすむ既存店売上高が、やはり営業収益の本命であり、財務基盤を固める根幹なのです。
  スーパーの出店戦略は、食品スーパーと有力専門店を組みあわせた複合出店など、大店立地法がらみの駆け込み出店が加速しています。
  その半面、効率のわるい老朽化店舗や業績不振で回復が見込めない店を閉鎖・売却する動きも盛んです。不採算店をスクラップ化することで、財務体質の向上をねらう企業が増えているのです。

・決算書のセグメント情報を生かす
   売上高については、上記のデータから新旧店舗の業績比較や売上規模の推移、設備投資の動向などが推測できるでしょう。決算資料には、当期の出店とリニューアル店および閉店の店舗数や開店・閉店の時期、所在地も示されています。
   そのほか決算短信には通常、親会社の単独決算資料として商品別売上状況が添付されます。これには衣料品、住居関連商品および食料品の各品種別売上高が、前年対比で掲載されています。
   また連結決算書のセグメント情報には、事業別(スーパーストア、コンビニ、レストラン事業など)、商品・サービス別、所在地別の営業収益が、前年対比で記載されています。  こうしたセグメント情報を分析すれば、商品別・部門別の業績がかなり詳しくわかるはずです。

 3.営業増益と経常増益
・営業利益と経常利益の差額は利息・配当金と金融資産の売却損益

  決算報告書による経営成績の概況は、冒頭に営業収益と営業利益、経常利益と当期純利益が前期と対比して示されます。
  当期の営業利益が前期より増えていれば営業増益、減っていれば営業減益です。これは本業の営業成果ですから、営業関係者がもっとも注目すべき大事な数字です。
 
   各部門と店舗別の経営計画では、目標となる営業利益をもとに売上計画と仕入予算が決まります。決算結果による計画・実績対比にも、営業利益が重視されるのは当然でしょう。
  おなじように、当期の経常利益が前期より増えていれば経常増益、減っていれば経常減益となります。
  営業利益から支払利息や金融資産の売却損益を加減したものが経常利益ですから、これは、営業活動と財務活動をあわせた事業成果です。経営幹部と財務部門が関心をもつべき利益責任といってよいでしょう。

・高利益体質に変える仕組みを追求する
  営業増益は、売上総利益の改善と経費削減の結果であり、とくに店舗運営と在庫コスト低減の内部努力を示唆しています。総利益はマーケテイング力とMD(商品政策)の成果ですが、営業利益は、組織の効率化とマネジメント能力に左右されるからです。
  経常利益については、受取配当金や株式売却益が多ければ営業減益・経常増益に、支払利息の膨張や財テク資産の評価損があれば、営業増益・経常減益になるケースもあります。
  これからの企業成長は売上のシェア拡大だけでなく、総利益と営業利益および経常利益の伸び率が決め手となるでしょう。それには、高付加価値・高利益体質に変える経営の仕組みを追求していかなければなりません。

.総資本回転率と営業収益経常利益率
・総資本回転率で事業投入資本の運用効率をみる

   
総資本(B/Sの右側)=総資産(左側)となるので、総資本回転率は総資産回転率と考えればわかりやすいでしょう。
   回転率とは動きの速さのことで、総資本回転率は、事業に投入した総資本(負債・純資産合計)つまり総資産(手持ち資金と商品や店舗設備)の活動性と運用効率がつかめるのです。
   総資本は有効に使われているか、一体いくら稼いだのか。1年間の売上高(または営業収益)で、総資本は何回回収できるかがわかります。
 
    この比率は、資産リストラの進み具合と資産効率が読める比率です。バブル後遺症の不良資産や、財テクがらみの株式、不動産投資により総資産が膨れていれば、低い数字が表れるでしょう。 
  資産の肥満は、他人資本(負債)を増やします。肥満の大きな原因は過剰在庫、コゲつき債権、遊休設備など不良資産の温存です。その結果、過大な債務を抱えてピンチに陥るケースが頻発しているから要注意です。

・営業収益経常利益率で事業の採算性を判断する
  総資本回転率とならんで、経営効率を見るもう一つの柱が営業収益経常利益率です。
   これは、営業収益に対する経常利益の割合を見る比率で、稼いだ収益から各種の費用をさし引き、最終的にいくら事業利益(経常利益)が残ったかがわかります。
  事業経営は、資本投入と儲けの両面からとらえる必要があり、資本の効率は総資本回転率で、儲けの程度つまり採算性は、営業収益経常利益率で判断するのです。
 
   営業収益のかわりに、売上高をつかえば売上高経常利益率となり、サービス収入(テナント料収入など)をのぞく商品売上高だけの採算性がわかります。
   営業収益ベースの総括的な数字は、株主や経営者向け、売上高ベースの営業数字は、管理者と一般社員向けと考えてよいでしょう。
  これら二つの数字に関連して、総資本回転率(営業収益÷総資本)×営業収益経常利益率(経常利益÷営業収益)=総資本利益率(経常利益÷総資本)の大事な関係を知っておきましょう。総資本利益率とはROI(Return On Investment)のことです。

 5.総資本経常利益率(ROI)
・ROIは総資産の収益性を判定する総合指標

 総資本経常利益率は、事業に投入した総資本(総資産)がいくら経常利益を上げたのか、資本収益性をみる比率です。通常は、総資本利益率(ROI)と略称で呼ばれます。
   総資本利益率=営業収益(売上高)経常利益率×総資本回転率からもわかるように、ROIは、二つの経営比率を含む総合的な経営指標です。 
   
   経常利益率は、使った資本を考えずに収益と利益から採算性だけを見ます。総資本回転率は、儲けた利益を度外視して資本と収益から資本効率だけを見ます。そこで、両者をあわせた総合指標として、総資本利益率が重要な意味をもつのです。 
  これは、企業が総資産をどう活用し利益を生みだしたかを示すので、業績評価のための有力な指標となるのです。またこの数字を使えば、企業間の業績比較も簡単にできるでしょう。

・ROI中心に採算性と資本効率を追求する
   決算書分析では、総資本利益率を中心として体系的に、採算性と資本効率を評価検討します(ROIチャート)。
 採算性の系統は、P/Lによる総利益率から営業利益率、経常利益率へ、資本効率の系統は、B/Sによる売掛金回転率から在庫回転率、設備回転率へと掘り下げていくのです。
 
   そして総資本利益率が低い原因は、利益率の問題かそれとも回転率にあるのか。P/L上の儲けとB/S上の資金の両面から、問題点の手掛かりを合理的につかむのです。
  経営の長所・短所を体系的に分析し、戦略的に解決策を探る方法がもっとも理にかなっているからです。
   しかも、大きな数字から小さな数字へ、森から林、林から樹木へと体系的に見る習慣を身につけたいものです。重箱の隅ばかりほじっていては、大局は見えてこないでしょう。

 6.損益分岐点比率
・損益分岐点比率は80~90%以下が安全圏

 
事業にかかるコスト(費用)は収益で回収するため、収益が多ければ利益は残るが不足なら欠損となります。その分かれ目が分岐点で、損益ゼロとなる売上高が損益分岐点売上高(分岐点売上高と略す)です。
 損益分岐点比率(経営安全率ともいう)は、分岐点売上高と現状の売上高とを比べた比率です。これにより、赤字に転落するまでの売上高余裕度がわかるので、不況耐久力のバロメーターともいわれるのです。
 

   たとえば分岐点比率が90%なら、売上があと10%以上減ると赤字に転落します。この比率は80~90%が安全圏、90%以上は警戒信号、100%を越すと赤字ですから、会社の安全度と危険度と知らせてくれる便利な指標です。
  分岐点比率を下げるには、売上を拡大するか原価を引き下げるか、または固定費(販管費)を削減するか3
つの方法しかありません。
  固定費は、時間・空間比例コストですから、意志決定と業務のスピードアップや店舗・倉庫の活性化、物流コスト合理化とアウトソーシング(固定費の変動費化)などが着眼ポイントとなるでしょう。

・概算の分岐点比率は販管費と荒利益率から計算する
   分岐点売上高を計算するには、まず直近のP/Lから、会社の費用を変動費と固定費に分けなければなりません(費用分解という)。
   変動費は、売上高の増減に比例する費用で、固定費は売上高の変化に関係なく一定の費用です。
  売上原価はすべて変動費とし、販管費はすべて固定費とするか、やや大まかに販管費を固定費と変動費にわける(販促費や物流費の一部を変動費とする)方法もあります。
  計算の方法は、「売上高-変動費=限界利益」、「限界利益÷売上高=限界利益率」、「分岐点売上高=固定費÷限界利益率」となります。 
   
   また分岐点比率は、「分岐点比率=分岐点売上高÷現状の売上高」で計算します。
   ごく大まかな計算なら、「分岐点売上高=販管費÷売上総利益率」とすればよいでしょう。ただし、固定費≒販管費、限界利益率≒売上総利益率(粗利益率)とみた場合です。

 7.株主資本当期利益率(ROE)
・投資家が注目する株主資本利益率

 資本の調達方法には、自己資本と他人資本(長期・短期負債)があります。
 株主資本とは,
この自己資本(純資産-新株予約権-少数株主持分)のことです。資本金のほか内部留保(資本剰余金+利益剰余金)もあわせて、自己資本は株主に帰属するという考え方です。
 

   一方、利益には、税引後当期純利益が使われます。これは配当金の原資であり、株式元本と配当の安全性にかかわる利益です。当期純利益が大きければ株価は強含み、小さければ弱含みとなります。
 株主資本利益率(ROE:Return  On Equity)は、分子に当期利益、分母には株主資本がくるのです。これは、株主や投資家が積極的に関心をもつ比率で、投資分析では、銘柄の実体価値を判断するのに重視されるものです。

・株主資本比率とあわせて検討する
  企業は、株主資本比率(自己資本比率)が大きいほど健全といえますが、それにあわせて当期純利益が増えなければ、株主資本利益率は低下します。
  株主資本利益率=総資本利益率(当期利益/総資本)÷株主資本比率(株主資本/総資本)の関係から、総資本利益率を上げるか株主資本比率を下げれば、株主資本利益率は向上します。健全性と株主利益は一見矛盾するようですが、そのバランスを決めるのが企業の配当政策でなのです。
 
   また、総資本利益率が借入金利率より高いときは、有利子負債(借入金、社債)の拡大により株主資本利益率を増大させる効果があるります(レバレッジ効果、テコの原理)。好況時に高成長が見込めるなら、負債の積極的導入による拡大路線は株主・投資家から支持されるはずです。
 いずれにしても、株主から調達した資本を有効に生かして収益を上げるには、経営の効率化を進めるとともに、新しい収益源を開拓しなければなりません。

 8.株式会社と株主
・株式会社は株主、取締役、監査役が舵を取るシステム

  株式会社は、大衆から広く資本を集め、多数が参加する営利企業です。その特徴は、経営と資本(所有)が分離した企業形態といえるでしょう。
  会社の資本は株主が出資し、経営は専門家である取締役(経営者)にまかされます。取締役は株主である必要はないのです。
 
   株主は、株主総会で取締役を選任するほか、重要な意志決定を行います。取締役会は代表取締役を選び、代表取締役は会社を代表して業務を執行します。総会は多数決主義により、株式の過半数をもてば経営を支配することができるわけです。
 

   一般の株主は通常、経営参加の意志はなく利益配当だけに強い関心があります。株主の責任は出資額が限度ですから、会社が倒産しても株式を放棄すれば、それ以上の責任は負いません(株主有限責任の原則)
 なお、資本金5億円以上(または負債総額200億円以上)を大会社、5億円未満を中小会社といいます。

・株主には利益配分と経営参加の権利がある
 株主には、経済的利益を受ける権利(自益権)と経営に参加する権利(共益権)があります。
  自益権とは
  ①利益配当を受ける権利(利益配当請求権)、
  ②増資時に新株を引き受ける権利(新株引受権)、
  ③営業譲渡、合併時に株式の買い取りを求める権利(株式買取請求権)、
  ④解散時に残余財産の分配を受ける権利、をいいます。 

  共益権
とは
  ①株主総会における議決権、
  ②帳簿・書類の閲覧権、
  ③会社を守るため取締役を訴える権利(代表訴訟提起権)、
  ④一定数以上の株式所有者が総会の招集、議案の提案、役員解任、会社解散を求める権利、をいいます。
 
 
   1株の権利は原則として平等であり、株主の権利は持株数に比例します(株主平等の原則および1株1議決権の原則)
 株主権を行使するには、株券を取得して名義を書き換え、株主名簿に記載しなければなりません。

 9.上場企業 
・株式公開で市場の評価を受け資金を調達する

  株式を売買する市場を証券市場といい、証券市場で株式売買をすることを株式公開といいます。株式公開には、証券取引所によるきびしい審査基準をクリアしなければなりません。これをパスした株式公開企業が上場企業なのです。
 
   証券取引所は、株式や債券の流通市場で、投資家同士が有価証券(株式、債券、転換社債など)を売買する場所です。また、証券会社はその注文を取り次ぐ所で、証券市場と投資家とを仲介する役割をはたします。
   
 株式公開のおもな目的は、市場からの資金調達ですが、そのほか株価をとおして企業価値の評価を受けます。また、知名度と信用度を上げる効果があり、会社や従業員のステイタスとなる一方、社会的責任も当然重くなるでしょう。

 ・東証には一部市場、二部市場と外国株市場がある
  証券取引所の上場審査基準には、上場株式数、株式の分布状況、純資産(株主資本)の額、利益の額および利益配当の見込みなど、いろいろな制約条件があります。
   東京証券取引所には第1
部市場、第2部市場および外国株市場があり、約2000企業がいずれかに上場しています。
   
   市場1部と市場2部の違いは、1
部銘柄指定基準と2部銘柄指定替基準によるもので、1部銘柄基準を満たせば、2部から1部に指定されます。その反対に、倒産などで上場廃止基準に触れれば、上場は廃止されます。
   証券会社は免許制から登録制に変わり、証券会社による投資家同士の取引仲介ルールは、価格優先と時間優先の原則による競争売買です。

 10.店頭公開
・店頭登録銘柄として証券会社で売買される

  証券取引所に上場されていない株式は、証券会社の店頭だけで売買されるので、これを店頭銘柄と呼んでいます。
  証券取引所のほかにも取引市場があり、それが店頭市場です。店頭市場では、取引所に登録した上場銘柄以外の、店頭登録基準を満たした登録株の売買がおこなわれます。
   
   店頭市場で取引される銘柄は、証券取引業協会のルールにもとづくもので、証券取引所の上場基準より制約条件は緩和されています。ただし、取引方法は取引所とほほおなじです。
 店頭公開の審査基準には、形式基準と実質基準があります。
  そのうち形式基準には、最低必要条件の充足(受付基準)と申請前の一定期間内の禁止事項(不受理事項)が決められています。
  実質基準には、
①企業経営の安定性と将来性、
②経営組織の整備、
③デイスクロージャー体制の確立、
④関係会社の整備、などに関する基準が示されています。

 ・メリットは資金調達力と管理体制のレベルアップ
  店頭公開のメリットとしては、資金調達力の増大とそれに伴う財務体質の充実、経営管理体制の強化などが挙げられます。企業の知名度と社会的信用力が向上し、従業員のモラル高揚と人材の育成も期待できるでしょう。
   
   デメリットとしては、投機的取引や株集め対策と株主総会対策、企業内容の開示義務に伴う事務負担の増加などが想定されます。
  店頭公開は、オーナー企業から脱皮して、永続的な成長発展を社会に宣言することです。ですから、経営トップみずから不退転の意志と決断力を示し、長期展望のもとに取り組まなければなりません。

 11.株価と株価収益率(PER)
・1株あたり利益から株価を読む株価収益率

  株価収益率PER(Price Earning Ratio)ともいわれ、株価を評価する代表的な尺度です。1株あたり税引後当期利益EPS:Earning Per Share)に対する株価の倍率(株価÷1株あたり当期利益)を示すものです。
  これは、1株あたり利益に比べ、株価がどの程度の水準にあるかを見る指標です。この倍率が高ければ、利益に対して株価は割高、低ければ割安と判断されます。
 
   株価収益率は、株価の利益先見性(証券アナリスト等による)に注目して、1株あたりの予想利益から推計することが多く、これが低いのは、投資家が株価を過小評価しているか悲観的に予測している証拠といえます。逆に高いのは、業績が躍進しているか将来性が有望ということになるでしょう。
 割高・割安の判断は市場動向で変わるため、過去の最高PER、最低PERや市場の平均PERと比べる必要があります。さらに、1株あたりキャッシュフロー利益による、キャッシュフロー・レシオPCFR)を使うこともあります。

 ・1株あたり配当金から株価をみる配当利回り
   一方、株価に対する1株あたり年配当金の割合(1株の年配当金÷株価)が、配当利回りです。株に投資した資金がいくら収益を上げたか、投資採算を判断する尺度です。
   わが国では、安定配当を続ける企業が多いため、年配当金の予想は容易です。これにより、希望銘柄の配当利回りはすぐ計算できるでしょう。
   ただし、配当より利益のほうが企業の力を正確に反映するので、利回りより収益率のほうが投資基準としては適切ともいわれています。いずれにしても、株価評価の絶対的基準は存在しないことを知るべきでしょう。

 12.株式時価総額と企業の評価
・時価総額は資本市場が評価した企業価値

  発行済み株式数に、株価を掛けたものが株式時価総額(時価総額と略す)です。
  時価総額は、企業価値を株主の立場から評価した数字で、企業の成長性と含み資産を織り込んだ総合的価値を表しています。
   国際的な企業間比較やM&Aでは、時価総額(実際には1株あたり純資産)を尺度として企業価値を評価するのが普通です。また、これを他の経済指標と比べ、市場の過熱・沈滞ぶりを推計したり、マクロ経済における株式市場の規模を測ったりするのです。
 
   従来の財産法では、株主資本を企業の解散価値としてきました。しかし、実際に資産・負債の中身を精査すると、正味評価額は財務諸表と大きく異なる場合が少なくありません。このことは、バブル崩壊による負の遺産整理からも経験ずみでしょう。
   時価総額は、資本調達市場の評価を尊重する点で優れていますが、これは毎日変わり、投資家の投機性や心理要因を避けることはできないのです。

・キャッシュフロー経営ではEVA・MVAを重視
   企業価値を測るモノサシは、投資家、債権者、消費者など評価者により異なります。企業内では、経営者が業績評価について多くの課題を抱えています。
  これまで株式市場では、1株あたり利益が株価を決める要因とされ、ROE(株主資本利益率)に注目してきました。しかし事業活動と資本市場のグローバル化が進み、キャッシュフローを重視した企業価値がいまや世界標準になろうとしています。
 
   キャッシュフロー(CF)の拡大は、投下資本の効率を高め、企業価値と株主価値を大きくするでしょう。企業価値とは、割引フリーCF(将来のフリーCFを資本コスト率で割引き現在価値に換算する)であり、株主価値とは、企業価値から有利子負債を引いたものです。
   新しい指標の一つに、経済的付加価値(EVA)がありますが、EVA=税調整後CF営業利益-投下資本×資本コスト率となります。またEVAの累計(現在価値に換算)を、市場付加価値(MVA)と呼んでいます。

 13.株式分割と自社株消却
・好調企業は株式分割で収益還元ができる

  株式分割とは、1株を2株にするなど株式を細分化することで、会社の財産や資本を変えずに発行株数を増やす方法です。
   株価が高くなったとき、分割して株価を下げ投資家が買いやすくする、分割に比例して配当率は下げないので実質的な増配になる、などの理由から株主優遇策とされています。

  株式分割で増える株式は、持株数におうじて株主(基準日に株主名簿に記載された株主)に無償で与えられます。株主の実質的地位は変わらず、株主への一種の収益還元といえるものです。これにより株価の高騰を冷やし、流通性を高めることが期待できます。 
ただし、企業の業績が順調で、株価が強含みの状態でなければ実行は難しいでしょう。

   
   会社は発行できる株式数(授権株式数)をあらかじめ定款で定めておかなければならず、この授権株式数を変更するには、株主総会の承認を得なければなりません。しかし、株式分割の割合に応じた授権株式数の変更については、取締役会決議で行うことができるようになりました。

・株式消却で持合株を解消する動き  
 
 分配可能剰余金(配当可能利益)の範囲内であれば、会社は原則として自由に自己株式(自社株)を取得することができます。
 
自社株買いには、買入れた株式を会社が保有(金庫株という)するものと、消却するものとがあり、
消却して株式数を減らす方法を株式消却といいます。
 
  自社株買いの狙いは、
市場における株式需給の調整、
1株あたり資産価値の上昇、
金庫株の確保、
従業員持株の確保、
敵対的買収の予防、などのためと考えられています。


  自己株式の取得は、株主に現金が支払われるので利益配当と同じく剰余金の分配とみなし、会社法では
①株主総会の特別決議を必要とする、
②買入額は剰余金の範囲内とする、
③取得株式数は発行済み株式数の5分の1以内とする、など制限規定があります。
 
会社はまた、取締役会の決議(または決定)により、自己株式を消却することができます。決定すべき事項は、
①消却する株式の種類(種類株式を発行しているとき)、
②株式数、
③効力発生日です。
    分配可能剰余金で株式を消却するには、定款に剰余金による株式消却の定めが必要であり、消却額は剰余金の範囲内でなければなりません。
 
   株式数が減ると1株あたり利益は増えるため、1株あたりの収益力(株主資本利益率)を上げることができるのです。
 また連結決算の導入にともない、系列企業や銀行による株式持ち合いの解消が進んでいます。しかし、自社株の取得と消却するには、買い戻す資金と利益が必要なことはいうまでもありません。
 
 自己株消却の会計処理は、消却する株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減少させます(会社計算規則)。

  
 14.第三者割当増資と資本提携
・第三者割当増資にはきびしい制限がある

  第三者割当増資は、新株発行に際し株主以外の第三者に新株引受権を与えることです。株式を意図的に特定の引受人に割当てるため、これが乱用されると一般株主の利益を害する恐れがあります。そこで、会社法にはきびしい制限規定が設けられました。
  時価より低い価格で新株を発行するなど、とくに有利な条件を提供(有利発行)するときは、株主総会の特別決議(3分の2以上)を必要とします。
  定款に第三者へ新株引受権を与える定めがあっても、この特別決議は必要とされ、しかも新株発行のたびに適用されます。
  取締役会は、第三者割当の条件と理由を株主総会に開示しなければなりません。

・資本提携の典型は「株式持ち合い」
  2つ以上の企業が、緊密に業務協力しあうのが企業提携です。これには、株式を取得するかしないかで資本提携と業務提携に分かれます。
  資本提携は、手法としてはM&A(合併・買収)による株式取得(株式譲渡と新株引受け)に近いものの、経営権の支配をねらわないところがその特徴といえます。
   
   わが国では、これまでM&Aのような経営権にかかわるドライな戦略は好まれませんでした。そこで株式持ち合い(株式の一部譲渡)など、緩やかな資本提携が進んだのです。

   株式持ち合いの狙いとしては、
①企業同士が友好関係を維持する(サイレント株主)、
②長期的視点で経営戦略を展開する、
③買い占め・乗っ取りを防止するための安定株主工作、
④相互抑止力による系列関係の維持、などが考えられるでしょう。
  しかし持合株式は、国際会計基準の導入にともない解消の方向に向かっているようです。

 

2024年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ