「14の決算書基本用語集」
1.貸借対照表
・貸借対照表から資金の運用・調達状況をつかむ
貸借対照表はバランスシート(B/S)ともいわれ、これは期末における会社の財産内容または財政状態をまとめた一覧表です。
会社の財産は、すべて資金により購入したものですが、その資金は、出資者による自己資金と借入金など他人からの資金でまかなわれています。
B/Sでは、会社の財産を資産といい、これには現金・預金と商品在庫、店舗設備などが含まれます。また、自己資金を純資産(B/Sでは純資産合計)、他人からの資金を負債といい、純資産は資本金と内部留保(準備金と剰余金)をあわせたものをいいます。負債には、仕入債務と借入金、社債などが含まれます。
見方を変えると、負債・純資産(B/Sの右側、貸方)からは、事業資金をどこからいくら調達したか、資産(左側、借方)からは、その資金をどのように使ったかがわかるのです。
こうして、資金の出どころと使いみちが一目でわかるよう、資産合計=負債・純資産合計のかたちで左右対照の一覧表にしたものが貸借対照表なのです。
・決算書をつくる目的は外部報告と内部管理
会社は毎年、年度末に財産のあり高をつかみ、また、1年間(中間決算は半期)の売上高とそれに要した費用を計算して、その年(会計期間)の経営成果をまとめます。そこで期末には、かならず会計記録を集計して決算をし、手持ち財産と業績を正しく計算しなければなりません。
決算書は、貸借対照表と損益計算書およびキャッシュフロー計算書(上場企業)の3本柱で構成され、これらは財務諸表とも呼ばれています。いわば、株主や債権者、銀行、税務署など外部関係者に報告する会社の成績表ともいえるでしょう。
ですから利害関係者が判断を誤らないよう、公正な会計ルール(商法、証券取引法、企業会計原則)にしたがって、真実の情報をまとめ提供しなければなりません。重要な会計情報を隠したり、利益の過大表示(粉飾決算)や過小表示(逆粉飾)をすれば、犯罪行為となることはいうまでもないことです。
そのほか決算書は、会社内部の意志決定やマネジメント(経営管理)のための経営情報として、今日では事業活動の計画・統制に欠かせない重要な資料となっているのです。
2.損益計算書
・損益計算書から儲けの原因と結果をつかむ
損益計算書(P/L)は、一年間(中間決算は半年)の営業成果をまとめた一覧表です。いくらコスト(費用)をかけてどれだけ稼ぎ(収益)、さし引きいくら儲かったのか(利益)。会社の業績について、儲けの原因と結果が収益-費用=利益の順に示されます。
P/Lの大事な数字を5つ挙げれば、売上高と売上総利益(総利益ともいう)、営業利益と経常利益および当期純利益となるでしょう。それぞれ利益の源泉がどこにあるのか、収益と費用の対応関係からしっかりつかむことが重要なのです。
たとえば、総利益が減ったのは売上低下によるのか原価上昇か、また営業利益がふえたのは、総利益増加によるのか販管費節約かなど、変化の原因をよく考えなければなりません。
・売上総利益と営業利益の獲得は営業サイドの責任
営業活動の結果はすべて営業利益に集約されるので、この利益責任は営業サイドにあります。いかに収益を増やし費用(コスト)を減らして、営業利益を大きくするか。P/Lを読めば、総利益改善と経費効率化の問題点がはっきりするはずです。
営業外損益には受取利息・配当金や支払利息など、金融活動による収益と費用が含まれます。また特別損益には、固定資産売却や財テク損益、バブル後遺症による不良資産の処理など臨時特別の損益が表れます。これは経営陣と財務部門の責任範囲といえるでしょう。
このように数字の羅列にみえる決算書も、その骨組みと読み方のコツを覚えれば、会社の実態が一目でわかるから面白いのです。5つか6つの大事な数字を、頭から3~4ケタで読めば覚えやすいでしょう。着眼大局、着手小局で、まず全体像をつかむことが大切なのです。
大きな数字に異常を感じたら、つづいて小項目のこまかい数字に目を移し、その原因を探っていけばよいでしょう。決算書がすらすら読めれば、会社の数字に強くなれます。計数感覚を磨くのは、有能な社員になるための必須条件なのです。
3.資産と負債
・会社は負債・資本を事業資産に変えて収益を上げる
会社はこの資本で商品や店舗設備を購入し、人と経費を使って販売活動をおこないます。つまり、自己資本と他人資本(負債)が事業資産に変身し、収益を上げる仕組みなのです。
ですから、少ない資産でより多くの売上を稼ぐのが、資産効率のよい会社ということになります。また、自己資本が多く負債が少なければ、会社の足腰は丈夫で安泰といえるでしょう。
資産は、1年以内に現金化する流動資産と、現金化しない設備などの固定資産にわかれます。負債(債務)もおなじく短期に支払う流動負債と、長期に返済する固定負債があります。純資産合計は返済不要の自前の資本なので、自己資本とも呼ばれるのです。
・貸借対照表から支払能力と財務基盤がわかる
会社が存続するには、支払能力を確保し健全な資本構成を維持しなければなりません。
支払能力は、流動資産と流動負債のバランスおよび手持ち現金・預金の大きさ、資本構成は、自己資本と負債のバランスおよび有利子負債(借入金と社債)の大きさから、その良否を判断します。
過大な在庫と設備は資産を膨らませ、他方では借金や社債を増やします。有利子負債は、元利返済の負担により財務基盤を悪化させます。とくに自己資本が少ない会社が、店舗の積極拡張路線をとるときはこの点に注意する必要があります。
会社の足腰の強さは、自己資本と固定資産とのバランスからもわかります。設備投資に自己資本が不足すれば、結局は負債に依存するからです。
また資金繰りが忙しい会社は、流動資産に比べて流動負債が多くなります。最悪の場合は、赤字が累積して負債超」に転落し、資産より負債のほうが多い(純資産合計はマイナスとなる)倒産状態になるから要注意です。
自己資本の充実は、勝ち残りのための必要条件ですが、時間がかかるため計画的かつ段階的改善が必須となるのです。財務の評価には、自己資本増減のチェックを忘れてはなりまません。
資産は、商品や設備など商売に必要なモノであり、負債は、仕入債務や借入金などの他人資本です。商売には元手となる資金がいりますが、資金は、自己資本(純資産合計)と他人資本(負債)により調達されます。
4.減価償却費と内部留保
・減価償却はコストと資金源泉の二つの顔をもつ
自社所有の建物や店舗設備などは、時間がたてば摩耗し消耗します。その資産の目減り分を、耐用年数におうじて評価計上する会計処理が減価償却です。
価償却費は、P/Lの販管費(経費)に計上しますが、実際には「現金支出のない費用」です。代金はすでに設備購入時に支払いずみだからです。
これはまた、多額の購入費を長期間にわけて毎年平均化し、各年度の収益と費用を無理なく対応させる方法でもあります。費用をすべて設備の購入年度に一括計上すれば、その年の決算は収入に比べて費用が多くなりバランスを崩すからです。設備はB/Sの固定資産に計上し、減価償却費の金額だけを毎年減額するのです。
費用は販売活動により回収されるので、計算上は、減価償却費に相当する現金(キャッシュ)が手元に残るはずです。そこで、減価償却費と留保利益をあわせたものを自己金融(狭義のキャッシュフロー)ともいいます。
自己金融は会社が自力で創りだした資金余裕です。この資金の範囲なら、店舗拡張や設備投資は問題ないし、銀行からも安心して借金ができるでしょう。
減価償却費は、自己金融とみれば資金源だから大きいほうが望ましく、経費とみれば負担要因だから小さいほうがよいことになります。元気印の会社と不振企業では、それぞれ対応の異なる二面性がみられるわけです。
・内部留保はコストのかからない理想的な追加資本
税引後の当期純利益は前期の繰越利益とあわせて、その一部を株主配当や自社株購入のために配分し、残りは社内留保(利益剰余金)して自己資本(純資産)を追加拡充します。
会社が自己資本をふやすには、内部留保によるか資本金を増資するほかに方法はありません。株式増資には配当金という資本コストがかかりますが、内部留保はコストのいらない追加資本です。これは、自己資本を蓄積するもっとも望ましい姿といえるでしょう。
他人資本(負債)依存型の会社は、外部流出をなるべく抑えて内部留保を積みまし、まず財政基盤を固めなければなりません。不況抵抗力をつけるにせよ新事業分野へ進出するにせよ、先立つものは資金力ですから、資本蓄積を第一に心掛ける経営が大切なのです。
もちろん、一定の配当金は株主に対する経営責任であり、その目標達成は至上命令といえます。また最近は、企業理念として経営成果の社会還元が求められています。そうした社会的課題にも、前向きに取り組むことはいうまでもないことです。
5.営業収益と売上高
・営業収益は商品売上とサービス収入の合計
スーパーストアの収益の柱は商品売上高ですが、ほかにテナント料(不動産賃貸料)などサービス収入があるときは、それらをあわせ営業収益と呼んでいます。その場合売上高は、サービス収入をのぞいた商品だけの売上を意味します。
また、売上原価と販管費をあわせた費用を営業費用と呼び、営業収益-営業費用=営業利益となります。上場企業の有価証券報告書では、一般的な売上高-売上原価=売上総利益のほかに、とくに営業収益-売上原価=営業総利益の数字を計上することがあります。つまり「営業総利益=売上総利益+サービス収入」の関係になることがわかるでしょう。
サービス収入は売上原価を要しないことが多く、収入そのものが売上高より総利益に近いのです。P/Lに営業収益や営業総利益を示し、それぞれ商品とサービスの収益・費用をどう対応させ、計上するかの便法ともいえます。会計上の統一基準がないため、各企業がそれぞれ独自の表示方法を工夫し採用しているようです。
コンビニではゲームソフトの収益が大きく伸びているように、今後スーパーでも、流通金融などによるサービス収入は増大するでしょう。売上高よりサービス収入が急速に拡大すれば、営業収益や営業総利益も見逃せない数字となるはずです。
・決算情報は株主には営業収益基準、営業マンには売上高基準が役立つ
決算が終わると株主には、経営方針と経営成績および財務諸表(単独と連結)を含む決算短信(決算報告書を十数ページ程度に要約したもの)が提供されます。
またごく簡単な決算内容は、決算の要旨として新聞・官報に公告されます。毎年その時期には、決算記事や業界情報が新聞・業界紙をかざるのが通例です。
例えば、”スーパー上位10社の××年度(00年2月期)決算は、7社が減収で7社が経常減益となった。このうち既存店売上高は全10社が前年実績を割りこみ、各社とも客単価が大きく前年を下回った。”
”前年同月比の減収率は、イトーヨーカ堂8%(全店は3.5%)、ユニー7.3%(同1.9%)など。とくにGMSは、荒利益の高い衣料品が競争激化による不調で、利益源泉としての役割を果たさなくなっている。”
一般に増収・減収は売上高の増減を、増益・減益は経常利益の増減をさします。しかし、株主など外部関係者には営業収益と当期利益が、社内の店長や営業マンには、売上高と営業利益、経常利益のほうが注目されるはずです。どちらの基準によるのか、字句表現や注記をよくみてから判断しなければなりません。
自社ははたして増収増益か減収減益か、それは現場の実感と一致するか。減収と減益の理由は何か。さらに、建設的アイデアや改善意見がだせるようなら、あなたは会社に欠かせない貴重な人材といってよいでしょう。
6.売上総利益率と営業総利益率
・売上総利益率は販売力と商品力で儲ける力
売上高から売上原価を引いた儲けが、売上総利益(総利益、荒利益ともいう)です。売上総利益率は、売上高に対する総利益の割合ですから、販売力と商品力で儲ける力を表します。
売上高はお客から預かった仮の儲けで、原価(コスト)を支払った残りが本当の儲けです。このケジメをしっかりつけることが、経営の出発点といえるでしょう。預かったお金を自分のものと勘違いして手をつけるから、自転車操業や経営破綻に陥るのです。
売上原価=期首在庫高+当期仕入高-期末在庫高(=当期仕入高-在庫増加高)から、在庫がふえると原価が下がり、荒利益がふくらみます。不良在庫を抱えると、利益と税金がふえる会計の仕組になっているのです。これは一種の落とし穴だから要注意です。在庫増加はコストとならず、貸借対照表の流動資産(利益)になるからです。
・営業総利益率は商品とテナント料を合わせた採算性
営業収益営業総利益=営業収益-売上原価(=売上総利益+サービス収入)となります。営業総利益率は、営業収益に対する営業総利益の割合ですら、これは商品とサービスをふくむ営業力の儲ける力をしめしています。
小売業では、売上総利益は商品販売による付加価値、営業総利益はサービス関連をふくむ全社の付加価値とみてよいでしょう。サービス収入は仕入原価(直接原価)がほとんどないため、将来この分野が拡大すれば、全体の付加価値率を高める効果が期待されます。
スーパーもコンビニも今後は、総菜の加工販売、ゲームソフトや各種チケットの提供、公共料金の取り次ぎなどで高付加価値化をめざす動きは必死でしょう。また流通金融業務へ進出すれば、サービス収入の割合が急伸することは間違いありません。
サービス収入については直接・間接コストを明確にし、収益・費用を正しく対応させて、稼いだ付加価値を正確につかむことが将来の課題といえます。必要な経営情報がなければ、的確でスピーデイーな経営判断も効率的なマネジメントも難しいからです。
7.営業利益と販管費分配率
・営業利益は本業の活動成果のバロメーター
売上総利益(荒利益ともいう)から販売管理費(販管費と略す)を引いた残りが営業利益です。これは、本業の営業活動による成果判定のバロメーターです。
会社はともかく営業利益を確保するため、社内をあげて全力投球をしなければなりません。満足水準の営業利益が獲得できなければ、経営者は失格も同然、また部門管理者の責任は重大といってよいでしょう。
売上総利益-販管費=営業利益から、本業の成果である営業利益は、稼ぐ荒利益と使う経費コストのバランスに左右されることがわります。
売上総利益と営業利益の大小は、商品政策と店舗運営、社員の働き方によって決まります。2つの利益の関係から4つの経営パターンが考えられますが、自社の位置づけを知り、有効な対応策を検討しなければならなりません。
・儲かるわりに経費が少ない「利益体質型」(荒利益大/営業利益大)、
・儲かるが経費も多い「放漫経営型」(荒利益大/営業利益小)、
・儲けは少ないが経費を節約する「内部管理型」(荒利益小/営業利益大)、
・儲けは少ないのに経費が多い「慢性赤字型」(荒利益小/営業利益小)。
・販管費分配率は付加価値にしめる経費割合
販管費はいわゆる経費のことで、売上原価を第1のコストとすれば、販管費は第2のコストです。販管費をつかむ経営比率には、販管費比率(売上高に対する販管費の割合)と販管費分配率(売上総利益にしめる販管費の大きさ)の2つが考えられます。
いずれの数字も低いほうがよい比率です。積極的な販売活動を展開するには、それなりの経費コストがかかります。しかし油断をすると、経費は硬直化しふくらみます。きびしい市場環境に柔軟に対応していくには、ローコスト経営の身軽な体質に変えることが欠かせません。
それには、販管費をさらに人件費と販売費、管理費、物流費にわけ、それぞれ比率を分析しながら経費の効率化をはかる必要がある。
市場が成熟し競争が激しくなると、荒利益は低下していきます。仕入原価の削減は、外部に交渉相手のあることですが、販管費の節約合理化は、社内の取りくみ次第で直ちに実現できることが少なくありません。みずからの創意工夫で経費を抑制し、ともかく営業利益を絞りだすことが至上命令といえるでしょう。
8.経常利益と営業外収入
・営業利益と営業外損益を合わせると経常利益になる
会社には、本来の営業活動のほかにも収入と支出があります。たとえば受取利息・配当金や販促協力金などの営業外収入(収益)と、支払利息・割引料や株式公開費用などの営業外支出(費用)がそれです。
株式や社債など売買目的の短期有価証券(流動資産)については、その売却損益は営業外損益となります。しかし、関連会社の持合い株式など長期有価証券(B/S上の投資)の売却損益は、後述の特別損益に計上されます。
営業利益に営業外損益を加減した残りが経常利益です。これは毎期の、経常的な事業成果を表す利益です。営業外損益は金融・財務活動に派生するものが多いので、これは営業部門の責任というより、経営陣と財務部門の守備範囲といえるでしょう。
営業利益と経常利益の差額については、借金体質や財テク資産の評価結果(益出し)、関連会社からの配当金がはっきり表れるので、注目すべき大事なポイントといえます。
・営業外損益から財テク収入と金融負担の大きさをつかむ
問題は、汗水流してせっかく稼いだ貴重な営業利益を、金融費用や財テクの「含み損」により食いつぶす脆弱な財務体質かどうかにあります。
営業利益が大きいのに経常利益が極端に小さい場合と、営業利益が少ないのに経常利益が大きいケースがあるので、その理由をよく確かめなければなりません。前者は借金・社債による金融負担過大か、負の財テク遺産をかかえる企業。後者は株式・債券など、含み資産の売り食い経営が多いからです。
経常利益を確保するには、営業利益を大きくする一方、営業外支出を圧縮する必要があります。それには、
①高付加価値・高利益経営をめざし自己資本を充実する、
②経営体質をスリム化し借金など有利子負債をへらす、
③店舗設備の稼働率を上げ人的生産性(1人あたり荒利益)を向上する、
などの方向が必要な対応策となるでしょう。
9.当期利益と特別損益
・当期利益は配当金と内部留保の原資になる
営業外損益のほかにも、会社には「臨時・偶発的な利益や損失」が生じます。そこで、土地や設備および子会社株式などの売却益は特別利益、設備や長期有価証券の売却損と貸し倒れ損失、災害損失などは特別損失に計上します。
経常利益にこの特別損益を加えたものが税引前当期純利益です。ですから税金を払った後の当期純利益は、決算期間における会社全体の最終利益ということができるでしょう。
そして、その一部を株主配当と自社株購入などに分配し、残りは社内に留保して自己資本を追加蓄積(追加資本)するのです。
最終利益を含む利益剰余金は配当金の原資ですから、株主の関心を集めるのは当然のことです。会社の存続・成長と出資者への配当など、外部流出と内部留保のバランスを考えた剰余金の分配は、株主総会(または一定の条件で取締役会)で決議し決定することになります。
・特別損益から経営判断と会計方針が察知できる
実際には、この特別損益の会計処理が意図的かつ合法的におこなわれ、当期利益を加減するケースが少なくありません。水ぶくれ利益を計上する粉飾まがい決算や、資産の評価損を計上して利益を合法的に圧縮するなど、手口はさまざまです。
バブル後遺症の後始末のため、含み資産の売却損益や不良債権の償却があれば、ここに具体的な数字があらわれるから十分チェックする必要があります。
経常利益と当期純利益を比べながら特別損益の中身を検証すれば、経営陣の経営判断と財務部門の会計方針を読みとることができるでしょう。
老朽設備や不良資産を圧縮し減量経営をめざしているのか、経営が苦しいため資産の含み益を当てにしているのではないか、積極的にゼイ肉を落とし改革を進めようとしているのかなど。その内容から、経営改革や体質強化への姿勢が推測できるはずです。
ひとくちに経営再構築といっても、実質は前向きと後ろ向きのリストラがあります。こうした決算数字の背景から、会社の方向性を察知することが大切なのです。
10.連結決算書
・企業グループの業績と財政状態を連結決算で一本化する
事業の多角化や分社化、国際化が進むなかで、広範多岐にわたる企業活動の姿を正しくつかむには、単独決算とあわせ連結決算が重要になってきました。そこで上場企業には、連結決算書の作成と情報開示が義務づけられたのです(2000年3月期から)。
これにより、株式の持合いや子会社を利用した飛ばしなど、財務内容が明るみになります。企業集団の透明性が高まると、実力が評価される企業と淘汰される企業がきびしく選別され、業績不振の子会社は当然、グループ外しか消滅の指弾をうけるでしょう。
業績評価が連結中心に変わると、グループ全体で事業の最適組み合わせを考え、企業価値を高めていくかなければなりません。それには業態別、地域別セグメントの採算管理を徹底し、得意分野へ経営資源を集中投下することが不可欠です。
・資本を連結し内部取引による損益を消去する
連結貸借対照表(連結B/S)は、決算時点における連結企業グループの財政状態をまとめた計算書です。勘定科目の配列は単独決算書とあまり変わりませんが、3つの基本原則をふまえてつくられます。
①資本連結:親会社の投資勘定(子会社株式、出資金)と子会社の資本勘定を相殺消去する、
②債権・債務の相殺消去:グループ企業間の債権(売掛金、貸付金など)と債務(買掛金、借入金など)を相殺消去する、
③未実現利益の消去: 仕入商品や購入設備にふくまれる未実現利益を消去する。
なお、親会社単独の業績に対する連結業績の倍率を連単倍率といいます。売上高や利益の連単倍率が1より小さければ、グループ内の垂直的取引が多く、不振企業を抱えていることがわかるのです。
連結損益計算書(連結P/L)は、企業グループの一定期間の経営成績を総合し、収益・費用・利益のフローでしめす計算書です。親会社と子会社の個別P/Lを合計し、3つの基本原則をふまえてつくられます。
①内部売上の消去:グループ企業間の売上と仕入(売上原価)を相殺消去する、
②配当金の消去:親会社の受取配当金と子会社の支払配当金を相殺消去する、
③内部利益の消去:商品在庫と固定資産にふくまれる未実現利益を消去する。
11.連結子会社と持分法
・子会社は全部を、少数株主は持分だけを連結する
連結決算の対象となる企業は、まず連結子会社です。
子会社とは、議決権の51%以上をもつか(持株基準)、議決権の40~50%をもちかつ取締役会の過半数をしめるか、または財務や営業の方針決定を支配する会社(支配力基準)をいいます。また孫会社(子会社の子会社)は、子会社とおなじ扱いとなります。
つぎに、少数株主の持分(権利と負担)を連結決算に取りこみます。少数株主とは50%未満の外部株主(子会社の)で、それに帰属する権利が少数株主持分です。子会社の経営権は、議決権の過半数をもてば100%支配できます。しかし純資産と利益の分け前については、少数株主がいれば持株比率におうじた権利が生じるため、これを無視するわけにはいきません。
連結決算の手続きは、はじめに100%所有とみてグループ企業の決算書を合算するので、あとで少数株主持分を親会社持分と分けて計算し、連結決算書に反映させるのです。
少数株主の純資産は、連結B/Lに少数株主持分の項目を独立して計上します。また 当期純損益は、連結P/Lに少数株主利益(または損失)として明示します。
・関連会社は持分法により連結する
関連会社と非連結子会社(持分法適用会社という)は、持分法を適用するのが連結原則です。これは純資産(資本合計)と損益のうち親会社持分だけを連結するもので、それ以外は連結しません。
関連会社とは議決権の20~50%をもつか(持株基準)、または15~20%未満でも取締役以上の要職につくか、負債の大半を融資するなど大きな影響力をもつ(影響力基準)会社をいいます。
非連結子会社とは、子会社のうち重要性の低い小規模会社、一時的所有の子会社または全部連結をすると利害関係者が情報の判断を誤るおそれのある会社です。
連結子会社の場合は、売上高や資産、負債を全部連結しますが、持分法では、持分比率におうじて親会社の分け前だけを部分的に連結するのです。これにより、重要性の低い会社を連結決算に反映させ、全部連結を補完するわけです。
12.キャッシュフロー計算書と3つのキャッシュフロー
・発生主義から現金主義に変えてキャッシュの流れをつかむ
帳簿上の損益計算と実際の現金収支とが合わないため、資金繰りに苦労する会社は少なくありません。これは、発生主義会計と現金主義会計との違いが原因です。
売上があっても、売掛金や受取手形はすぐには現金化しません。仕入れも、買掛金や支払手形なら現金はいりません。現金の収支を正しくつかむには、こうした信用取引や減価償却費、引当金などの非資金項目(現金授受のない費用と収益)をのぞく必要があるのです。
つまり、発生主義による決算数字を現金主義になおして、キャッシュ収支をだすのです。キャッシュとは、現金と要求払預金(当座預金、普通預金、通知預金)をいいます。
発生主義会計は、会計処理の仕方次第で利益が変わえります。そこで帳簿上の利益ではなく、事実上の現金を尺度として会社の資金繰りや資金計画、事業採算を考えるのがキャッシュフロー会計なのです。
・営業・投資・財務活動にわけてキャッシュフローを計算する
キャッシュフロー計算書(C/F)では、3つの活動にわけて現金の増減をだします。
営業活動によるCFは、本業の生産・販売活動により生みだした現金で、プラス(入超)になるのが普通です。
投資活動によるCFは設備投資や株式投資で、通常はマイナス(出超)となります。
財務活動によるCFは借金や増資などの資金調達で、これは営業CFと投資CFの均衡によりプラスかマイナスかに振れます。
国際会計基準の導入により、2000年3月期から有価証券報告書に(連結)キャッシュフロー計算書が加わりMした。上場企業の決算書(財務諸表)は、これで3本柱となったわけです。
「損益計算書」で収益-費用=利益のフローを、「貸借対照表」で資産=負債+資本の財産ストックを、そして「キャッシュフロー計算書」でキャッシュの動きをつかみ、株主など利害関係者に情報開示しなければなりません。
13.税効果会計
・会計と税法のズレを調整し税金コストを平均化する
一般に税法による税額は、利益にもとづく税額(法人税等)とは異なります。
たとえば、法定限度をこえる減価償却費や引当金、不良債権処理は、会計では費用ですが税務では損金とはならず、税金がかかります(有税償却)。そこで課税所得の調整により、税金の前払いと後払いが生じるわけです。
税効果会計とは、企業会計と税法による納税時期のズレを調整し、前払税金・後払税金(繰延税金資産・負債)をだして、毎期の税負担と収益を平均化する方法です。これは支払時期を繰延べる方法ですから、納める税額が変わるわけではないのです。
これには、課税所得を調整し「法人税等調整額」をP/Lに示す「繰延法」と、利益積立金を修正し「繰延税金資産・負債」をB/Sに示す「資産負債法」の、2つのアプローチと会計手続きが必要となります。
・株主重視の業績評価と不良債権処理のメリット
税効果会計は、決算上の利益と税務上の税額とを関連づけ、業績に見合う適切な税金コストをつかむ方法です。
しかも、税引後利益を重視した業績評価ができるから、株主には大事な判断基準となります。また自己資本の低下を避けながら、不良債権処理が進められるメリットもあります。銀行融資や社債発行の際には、税効果を反映させた財務諸表の提示が求められるでしょう。
ただし、前払税金の回収期間が長くなれば、あとで戻る税金は見積もりが難しくなります。収益予想が不確実で、将来減算するはずの課税所得がなければ、税効果はえられません。
利益と自己資本のかさ上げにも、乱用の歯止めが必要でしょう。そこで、税金の回収期間は5年以内、3年連続欠損で今期も赤字企業には適用しない、業績予測は取締役会で承認するなど、税効果会計の適正な運用指針ができたのです。
14.有価証券と年金会計の時価評価主義
・金融資産は市場価格で評価し公開する
時価会計とは、B/Sの資産と負債を市場価格(時価)で評価計上する会計方法です。
売買目的の株式など短期所有の有価証券と金融派生商品(デリバテイブ)は2001年3月期から、企業間の持合い株式は、2002年3月期から時価会計が適用されます。 原価基準から時価基準に評価が変わると、金融資産の含み損益(時価と購入価額との差額)を決算書に計上しなければなりません。
また、デリバテイブ取引の簿外処理(オフバランス)ができなくなり、塩づけ状態の含み損益が表面化(オンバランス)します。これまで土地や株の含み益をあてにしてきた経営や、不良債権問題に苦しむ企業は、時価会計の導入により大きな影響を受けるでしょう。
その結果として、含み益による毎期決算の損益調整ができなくなる、時価基準による企業間比較が容易になりROA・ROE重視の経営にむかう、株式持合いの解消とリース資産の利用がすすむことが考えられます。
・退職給付の責任額を時価換算しオープンにする
一方、2001年3月期から年金会計が導入されました。
年金会計(退職給付会計)とは、退職給付(退職金や企業年金の総称)について包括的な会計処理をし、透明性を高める制度です。それには、すべての従業員が将来、確実に退職給付が受けられるよう、必要額を時価換算して費用に計上しなければなりません。
多くの企業では、退職一時金は引当金を計上し、退職年金は掛け金を外部拠出しています。いままで簿外債務としてきた年金資産の目減り分(隠れ債務)が、時価会計により表面化するわけです。引当金や責任準備金は、新しい基準では不足額が生じるため、それをどう埋め合わせるかが大きな問題となってきます。
そこで、3つの対応策が想定されるでしょう。特別損失を計上し赤字をだしても一気に処理する、持合い株式を退職給付のための信託に拠出し不足分を補う、決算利益により15年間の分割払にする、などです。
企業は負担に歯止めをかけるため、退職給付制度や人事制度にメスを入れることは確かです。退職金の前払制度や確定拠出型年金(日本版401K)の導入も進んでいる模様です。

