損益計算書

2008/12/20

決算書の仕組み(P/Lポイント講座①)

決算書とはどういうものか?

●決算書の2本柱は損益計算書と貸借対照表
 
 会社はすべて、年に1度はかならず会計帳簿を締切り、経営活動の成果を「決算書」にまとめることが法律で義務づけられています。 
  この帳簿を締切る作業が「決算」であり、締切った日が「決算日」になるのです。

 決算の対象となる期間は会計年度(事業年度)といわれ、これは会社の定款に明示されています。
 通常の会計期間は1年間ですが、半期(6ヶ月)の中間決算や4半期決算をすることもあります。

 決算書とは一般的な名称で、その作成ルールを定めた法令や規則により、会社計算書類(会社法)とか財務諸表(企業会計原則)、有価証券報告書(金融商品取引法)などさまざまな呼び方があるのです。

 これらに共通する内容としては、損益計算書と貸借対照表(バランスシート)、株主資本等変動計算書および事業報告書の4つがあり、なかでも中心になるのは「損益計算書(P/L)」と「貸借対照表(B/S)」の2つといってよいでしょう。

●儲けのプロセスと財政状態がわかる

 損益計算書(P/L:Profit & Loss Statement)は、1会計期間の営業成果を『
収益(売上高)-費用(コスト)=利益(または損失)』という損益の流れ(フロー)としてとらえ、儲けの原因と結果を計算書にまとめたものです。 
 これを見れば、一定期間の営業活動や財務活動の成果、つまり、会社の稼ぎとコストおよび儲けがひと目でわかります。

 一方の貸借対照表(B/S:Balance Sheet)は、会社が事業につぎ込んだ資金を、資産(資金の運用)と負債・純資産(資金の調達)にわけてとらえ、決算日の残高(ストック)を一覧表にまとめたものです。
 これを見れば、期末における会社の財政状態がひと目でわかるので、とくに資金力や財務内容を知るには大事な資料となっています。
 

● 最終利益の配分は株主総会で決める


 事業の成果である利益の分配は、期中または決算終了後に株主総会(または総会から委任された取締役会)で決めるのです。
 税金を払ったあとの当期純利益は、株主配当や自社株購入(一種の株主還元)、社会還元などに分配され、最後の残りは内部留保(利益剰余金)として社内に蓄積します。

 こうした
剰余金の分配については、「株主資本等変動計算書」に詳しく表示しなければなりません。
 また事業報告書は、会社の業務内容や財政状況に関連する重要事項を記載し、株主など利害関係者に実態を正しく説明するためのものです。

 そのほか付属明細書は、「販売管理費明細書」や「製造原価報告書」など、計算書類の明細や勘定科目の補足説明をするものです。 
 なお大企業では、グループ企業を統合した「連結決算書」と「キャッシュフロー計算書(C/F)」が、上記の2本柱にさらに加わります。

 キャッシュフロー計算書とは、現金・預金と有価証券(現金同等物)の収支を営業、投資、財務の3つの活動別に計算し、発生主義ではなく現金主義の立場からキャッシュの動きと増減を明らかにするものです。 

≪ワンポイント・アドバイス≫

●決算は会社の法定義務

 決算書に表れるのは会社全体の大きな数字ですが、それは現場の小さな数字の集大成にほかなりません。
 ですから、各自の仕事や職場の数字と関連づけて読めば、背後の意味や具体的な実感がつかめるのではないでしょうか。

 ところで、会社は事業活動をエンドレスに進めているので、業績を知るには、一定の期間(会計期間)を区切って収支を計算し、利益や損失と手持ちの財産をつかむ必要があります。

 そこで、年に一度はかならず会計帳簿を締め切り、採算状況と財政状態を会計ルールに従って計算し決算書にまとめるのです。

 中小企業と大企業では、会計基準と決算規定がかなり違いますが、ここでは前者を中心に基本的な説明をしながら、後者についても、随時要点を補足していきたいと考えています。

●当期純利益と純資産の増加は一致する

 損益計算書には、帳票による日常取引の継続的記録から、業績の因果関係が「収益-費用=利益」のプロセスとして順に示されます。

  貸借対照表には、期末の帳簿残高および現物棚卸から財産の手持ち高を誘導し、財政状態が「資産=負債+純資産」の一覧表として明らかにされます。

 振替伝票や勘定科目の仕分けをご存知かと思いますが、会社では複式簿記(正規の簿記という)で会計処理をしています。

 その結果、損益計算書の当期純利益(損益法)と、貸借対照表の純財産増加(期末純資産-期首純資産:財産法)が、不思議なことにピタリと符合するのです。

 これはまさに、複式簿記の魔術というほかはありません。
 この原理を武器にしてP/LとB/Sの両面からチェックすれば、粉飾決算の手口などもたいていは見破ることができるでしょう。

決算書の活かし方(P/Lポイント講座②)

決算書を経営にどう生かすか?

●外部報告と内部管理のための会計情報

 決算書はもともと、株主や取引先、銀行など会社の利害関係者(ステークホルダー)と、税務当局など監督官庁へ事業成果を報告するためにつくられました。
  ですから相手が判断を誤らないよう、統一した書式と公正な会計ルール(会社法、税法、企業会計原則など)にしたがって、真実の情報を提供しなければなりません。
 重要な会計情報を故意に隠したり粉飾決算をしたりすれば、犯罪となるのは当然のことです。


 しかし今では、こうした外部報告用の「財務会計」(制度会計ともいう)とは別に、会社内部の経営管理に役立てようとする、「管理会計」が発達しています。
  事業環境がめまぐるしく変わる現代は、業績をいち早くつかみ、会社の進路を臨機応変に軌道修正する機会が多くなりました。
 そこで、経営判断に役立つ企業情報または管理のための会計情報として、これを前向きに生かす方向へ変わってきたのです。
 今では法令や規則とは別に、経営上の必要性に合わせて月次決算や週次決算、さらに部門別決算を行う会社が増えています。

●決算短信で業績をつかもう!

 上場会社の決算情報は、有価証券報告書(金融商品取引法)として株主や投資家に公開され、また監督庁(証券取引所、財務省)にも提出されます。
 また、経営の透明度を高めて株主の権利を保護するため、報告書の作成と情報開示制度には厳しいルールが決められているのです。
 株主向けの決算発表に使う「決算短信」は、分厚い有価証券報告書に代わる財務諸表の要約版といってよいでしょう。

 まず
冒頭で、事業の総括的な成果を公表し、営業収益と三つの利益(営業利益、経常利益、当期純利益)について当期と前期の比較、対前期増減率が示されます。
 さらに、会社のおもな経営指標もわかるので、業績の全体像と収益・利益の動向や、増減の理由が明らかになるのです。
 決算短信の内容としては、当期業績の概要と次期予想、貸借対照表と損益計算書、利益分配と配当政策および重要な会計方針、有価証券等の時価情報、事業別・地域別セグメント情報などが記載されています。

●決算書に慣れて会社の数字に強くなろう!

 IT化が進み、経理・財務の仕事は、帳票の記録係と金庫番から資金管理や経営管理の情報参謀として、その役割が変わってきました。   
 経営幹部は「木を見て森を見ず」にならぬよう、つねに数字で会社の全体像を掌握することが求められます。
 決算書は会社の成績表であり、企業内情報の宝庫です。会社のあらゆる実績数字がここに集約され、有益な経営情報がいっぱいつまっているのです。
 
 
新事業展開のリスクに耐えられるのか。リストラの得失はどうか、不採算部門から撤退すべきか。財務基盤は安泰か、会社は生き残れるかなど。決算資料から問題解決の糸口を見つけ、機敏に改革の手を打つことが欠かせません。
  こうした計数情報を読みこなし、自在に生かす知識と能力を身につけることが、今やビジネスパーソンには必須条件ということができるでしょう。
 勘定科目や仕訳など簿記の基本原理も、決算書の読み方からアプローチすると意外にやさしく体得できるはずです。

≪ワンポイント・アドバイス≫

●注記事項に注目しよう!

 決算書の末尾欄外や有価証券報告書の添付書類(付属明細書、注記表)には、会計処理の方法や数字の計算根拠について補足説明が行われるのが普通です。
 重要な会計方針としては資産評価と減価償却の方法、引当金の計上基準、消費税の処理方法などが明らかにされます。

 
また、貸借対照表の注記(表)には、固定資産の減価償却累計額やリース資産の内訳が示されます。
 中小企業でも、役員と会社間の債権債務、担保提供や保証(簿外債務)などの情報は注記するのが望ましいとされています。
 業績不振の会社が、苦し紛れに会計の処理方法を変更したりすれば、その本音がここに表れるので注意して読み取ることが大切でしょう。

●決算書の法定開示制度

 会社法の定めにより、計算書類は定時株主総会の承認後、遅滞なく公告しなければなりません。
 「直接開示」 → 株主総会の前に、株主に直接送付して会社情報を提供する
 「間接開示」 → (一定の条件を満たす)株主と債権者の請求により、営業時間内にいつでも書類を閲覧できる
 「決算公告」 → 官報,日刊紙またはインターネットに決算書の要旨を掲載する(インターネットでは要旨は不可、全文掲載が必要)

●様々な立場で決算情報を使いこなそう!

 上場企業の有価証券報告書や決算短信には、計数情報だけでなく多彩な定性情報が盛り込まれています。
 営業マンなら、セグメント情報から営業基盤と市場動向、投資計画から競争力と成長分野を探ることができるでしょう。
 企画マンなら、事業ビジョンと経営戦略を読み取り、長期計画やM&A戦略に生かすことも考えられます。

 また就職予備軍なら、会社の将来性や組織風土、賃金水準に着目し、株主・投資家なら当然のこと、利益配分の実績と配当の将来性に関心をもつでしょう。
 利用する側のさまざまな視点から分析と理解が可能なので、公開情報の内容については、拙著『損益計算書の見方が面白いほどわかる本』を参照して頂ければ幸いです。

売上総利益と営業利益(P/Lポイント講座③)

損益計算書(P/L)の仕組みを知ろう!

●骨組みは収益・費用・利益の三つ!
 
 収益・費用・利益(または損失)の三つの関係から、一定期間の会社の損益状況を示したものが損益計算書です。
 一定期間とは会計(営業)年度のことで、計算書の頭に「○年○月○日~×年×月×日」とかならず期間が表示されます。
 これは年度決算のほか、中間決算や月次決算、部門別決算でも同様です。

 
収益とは、売上高やサービス料収入など会社の「稼ぎ」、費用とは、売上原価や経費などの「コスト」で、その差額が利益つまり「儲け」になります。
 事業活動でいくらコストがかかってどれだけ稼ぎ、差し引きいくら儲けたかがわかる仕組みになっているのです。
 会社を維持するには当然、費用より大きな収益が必要ですが、その差額にも売上総利益や営業利益、当期利益などいろいろあり、それぞれ利益の意味が違うことを理解すべきでしょう。

●売上総利益で実質的な稼ぎを見よう!

 損益計算書の中身を上から見ていくと、販売活動や購買・生産活動による「営業損益」、金融など財務活動による「営業外損益」、さらに貸倒れや固定資産(土地・設備)売却などによる「特別損益」、の三つの損益グループに区分されていることがわかります。

 
最初に示されるのが、「売上高―売上原価=売上総利益(総利益、粗利益ともいう)」の数字です。
 売上高は、お客から預かった仮の稼ぎで、実質の稼ぎとしては、売上原価を支払った残りの売上総利益が重要です。
 これは、人件費をはじめ諸経費の原資となる大事な利益ですから、売上高より売上総利益重視の経営が、これからは大切といえるでしょう。
 

●営業利益で本業の成績をつかもう!


 つぎに、「売上総利益―販売管理費(営業経費)=営業利益」は、会社本来の営業による業績の良否をみる利益です。
 効果的なマーケティングで総利益を確保するとともに、内部努力で経費を節減し、本業でともかく営業利益を絞り出す工夫が、生き残り対策の要諦といえます。 

 さらに、「営業利益±営業外損益=経常利益」の段階では、会社の経常的な事業成果を知ることができます。
 営業外損益には、おもに財務(金融)活動による利子・割引料と雑収入などが計上されます。
 借入金の支払利息や手形割引料が、どれくらい営業利益を食いつぶしているかが大事な着眼点になります。 

 最後は、「経常利益±特別損益=税引前当期純利益」となり、ここから税金を引いて当期純利益が計算されます。
 経常損益の段階までは、毎事業年度に繰り返し生じる収益・費用を勘案しますが、特別損益の段階では、土地・設備の売却損益や災害損失など、偶発的または臨時特別の損益が加味されるのです。

≪ワンポイント・アドバイス≫

●営業成果は総利益と営業利益に集約!

 勘定科目と数字がぎっしり並ぶ損益計算書を、ただ漫然と眺めていても中身はよく理解できません。
 基本となる骨組みは「収益-費用=利益」の対応関係ですから、まず利益に着目するのが簡単に読みとるコツです。
 損益計算書には、つぎの五つの利益が出てきます。

・売上総利益(粗利益) → 「売上高-売上原価」で、商品やサービスの提供により得た利益です。
 マーケティング戦略の適否が決め手ですが、流通業ではこれが付加価値になります。

・営業利益 → 「売上総利益-販売管理費」で、本来の営業活動から生みだした利益です。
 販売促進と物流コスト、人件費や家賃などに目配りが必要な営業幹部の利益責任が問われるでしょう。 

●経常利益で経営トップを評価!

・経常利益 → 「営業利益+営業外収益-営業外費用」で、雑収入や支払利息を考えに入れた利益です。
 会社の通常の経営活動から生まれた利益ですから、その良否により経営トップの手腕が厳しく評価されます。

・税引前当期純利益 → 「経常利益+特別利益-特別損失」で、おもに固定資産売却益や不良債権の処理損を加味した利益です。
 通常の事業以外に特殊な要因がかかわってくるので、いわば企業体質の強さと弱さを探ることができるでしょう。

●再生産の構図をつかもう!

・当期純利益 → 法人税、住民税、事業税などを支払った後の最終的な利益です。
 配当金と自社株購入、社会還元などに分配した残りは、社内に蓄積し自己資本(資本合計、株主資本)の増加に充てられます。
 
 こうして結局は、利益の一部が増殖資本となり、それが資産に変身して収益活動を繰り返すわけです。
 決算書の数字から、再生産の循環構造がつかめるようになれば、もう経営計数に強いビジネスマンといってよいでしょう。

経営を見る5つの数字(P/Lポイント講座④)

損益計算書を読むポイント!

●5つの数字で稼ぎと儲けの全体像を見よう!

 損益計算書を一覧し、まず会社の収益力の全体像をつかむことが大切です。
 5つの数字とは、売上高と売上総利益、営業利益、経常利益および当期純利益です。

 冒頭の売上高と末尾の当期純利益から、会社の営業規模と儲けの大きさがわかります。
 また、今期は増収増益(売上も利益も前期より増加)か減収増益(売上は減少したが利益は増加)かなど、事業の好不調を知ることもできるでしょう。

 売上総利益と営業利益、経常利益についても、それぞれ利益額の大きさだけでなく、その源泉は収益上昇かコスト低減かをよく探る必要があります。
 どの利益が満足水準でどの利益が不足なのか、その原因を追求すれば会社の強み・弱みがはっきりし、解決すべき課題が見えてくるからです。

●売上高、売上総利益は伸びているか?

 売上高は、第一の収入源ですから一応見ますが、何といっても大事な数字は、本当の稼ぎである売上総利益です。
 総利益の改善は、好調な営業活動によるのか原価見直しの成果か。これはおもに、販売政策と商品力に左右される利益です。

 新分野の開拓と商品開発、効率的な物流システムと在庫管理など、高付加価値経営による利益貢献度がわかるでしょう。
 総利益を伸ばすには、売上高を増やすか売上原価を減らすしか方法はありません。
 激しい競争環境のもとでは、得意分野への集中とコストダウンが至上命題となることはいうまでもないことです。

●会社は本業で確実に儲けているか?

 いくら総利益がよくても営業利益がわるければ、残念ながら管理者は失格といわなければなりません。
 営業利益の大きさは、会社の本業による業績判断の尺度になります。
 それは、総利益が大きいためか販管費の節約によるものか、積極的経営やリストラの功罪が明るみになるでしょう。

 経費合理化は店舗・工場のローコスト・オペレーションと人材活用、管理水準の向上が決め手です。
 営業利益が十分確保できていれば安心ですが、これが赤字なら、会社が危機に転落する前に、抜本的な打開策を打ち出す必要があります。
 いずれにせよ、本業で満足水準の営業利益が出ているかどうかが、会社の業績判断の大事な目安と考えてよいでしょう。

≪ワンポイント・アドバイス≫

●数字は頭から3ケタで大まかにつかもう!

 キーワードとなる数字は売上高、売上総利益、営業利益、経常利益および当期純利益の5つで、これを頭から3~4ケタの大きな単位でつかめばよいでしょう。
 6~7ケタもある数字を末端まで几帳面に読んでも、記憶に残らず全体像はつかめません。

 細かい勘定科目は後回しにして、中項目の5つの数字を百万円か億円単位で読めばよいのです。
 数字は頭から3ケタくらいが覚えやすく、末端まで正確に読む必要はありません。

●在庫膨張で計算上の利益は増える!

 売上総利益は、売上高から売上原価を引いた差額です。
 「売上原価=期首棚卸高+当期仕入高+製造原価-期末棚卸高」から、仕入高と製造原価だけでなく、棚卸高も売上原価を左右することがわかります。 
 ですから、期末棚卸高(在庫高)が増えると売上原価は下がるため、計算上の総利益が増えることになります。

 メーカーでは、製造原価報告書に「製造原価=原材料費+外注費+労務費+製造経費」の内訳が示されています。
  
 このことは、在庫管理がいかに重要かを示唆しているのです。
  仕入れは交渉相手のあることですが、在庫の圧縮は、社内のやる気と管理能力の問題です。
 さらに、在庫には多額の資金が滞留することを考えると、コスト面だけでなく資金面からも無視できない課題といえるでしょう。

利益体質か借金依存か(P/Lポイント講座⑤)

損益計算書から何がわかるか?

●営業外損益から企業体質を見分けよう!

 経常利益には、営業利益の大小と営業外損益が反映します。
 営業外収益は、おもに雑収入と受取利息、受取配当金などです。
 一方の営業外費用は、支払利息と短期有価証券の売却損などですから、ここには、金利負担や財テクの結果が表れます。

 ですから、有利子負債を圧縮したか、自己資本は充実しているかといった、財務基盤の強さが読みとれるでしょう。
 汗水流してせっかく稼いだ営業利益が、金融費用に吸いとられ、経常赤字に転落するケースは最悪の事態なのです。

 さらに税前当期純利益には、特別損益が反映します。
 特別利益は、おもに設備や土地、投資有価証券の売却益などです。
 一方の特別損失には、それら資産の売却損と貸倒損失、関係会社の株式評価損や会社整理損などがふくまれます。
 大会社なら、時価会計による評価損、減損会計による固定資産の減損損失、退職給付会計にともなう不足処理額などがここに計上されるでしょう。


 不動産や財テク、関連会社の整理など、いわば会社の事業以外に隠れた大事な要因が表面化するわけです。
 そこで、営業利益を建前の利益とすれば、営業外損益と特別損益から、会社の本音を読みとることができるのです。

●長所短所とその原因を確かめよう!

 最後の当期純利益は、株主配当や自社株取得、社会還元などに分配され、残りは利益剰余金として社内に留保されます。
 それが自己資本として蓄積され、再び収益活動に投入されるのです。

 なお、5つの数字についてはほかにも、人材の有効活用でいかに生産性を上げたか、社員1人あたりの売上高や総利益、営業利益を見ることを忘れてはなりません。

 これまで見てきたように、損益計算書からは各段階の利益または損失が具体的な数字でつかめます。
 利益(損失)は事業活動の結果ですから、その原因は当然、収益かコストの大小にあるはずです。

 総利益が少ないのは売上低迷か、それとも原価上昇によるものか。営業利益が出ないのは、総利益の低下か経費膨張のためか。
 損益の各段階別にその原因がわかれば、対応の方法を考えることができるでしょう。

 こうして、企業体質の長所短所をよく自覚し、計数で判断しながら経営再構築に取り組むことが大切なのです。

●時系列比較から成長力がわかる!

 売上高と総利益、営業利益の増減変化は、前期・前々期の決算数字と比べればわかりますが、これが会社の成長性です。
 利益や自己資本の成長は、確かに望ましいことです。
 しかし、売上高の増加より総資本(B/Sの資産合計)の伸びが大きくなると、資本効率や資金バランスが崩れるので注意しなければなりません。

 一期間の決算書を見るだけでも、会社のプロフィールはわかりますが、過去三期間くらいの動態比較をすれば、より鮮明に変化の実態や特徴が浮き彫りになるでしょう。
 
 会社の成長には、量的拡大と質的強化の両面があると考えられます。どちらが良い悪いではなく、経営バランスを大きく崩すことなく、二つの戦略を操りながら飛躍へ舵取りをするのが定石といえるようです。
 そこで前者の場合は、とくに社員一人あたり利益額(一種の生産性)、後者では、各利益率に注目する必要があります。

 また、公開企業の決算資料には、経営方針と次期予想、設備投資や出店計画の追加情報が盛り込まれているので、将来性を判断するのに大変役に立つはずです。

≪ワンポイント・アドバイス≫

●あなたの会社はどのタイプ?

 営業利益と経常利益を比べると、会社には四つのタイプがあることがわかります。
1)二つの利益がともに良好な
「利益体質型」。
2)前者は大きいが、金利負担のため後者の小さい
「借金依存型」。
3)それとは反対に、前者は赤字でも受取利息や資金運用益が多く、後者が黒字の
「財テク収入型」。
4)さらに、利益は両方とも過小の
「虚弱体質型」。
 自社の特徴は、どのタイプに当てはまるのか。体質改善のためにも、よく見極めておかなければなりません。

●「粉飾」と「粉飾まがい」決算の常套手段!

 粉飾とは、違法または不正な方法で利益を過大表示すること。逆粉飾は、反対に利益を過小表示する会計処理をいいます。

 会計ルールには、複数の方法からどれを選ぶか(例えば減価償却は定率法か定額法か)、一定の自由裁量の余地があるため、実際には、違法か適法か判別の難しいケースが少なくありません。
 そのため、はっきり不正と断言できないグレーゾーンの手口を、「粉飾まがい決算」と呼んでいるわけです。

 中小企業で一般に使われるのは、減価償却費(販売管理費)と貸倒引当金(営業外費用)の過小計上でしょう。
 会計上は禁止されていないため、これにより利益を水増しすることができます。

 また、経営リストラなどによる多額の損失を、営業外費用または特別損失に計上したときは、それが一時的なものか何年も継続するのか突き止めることが大切でしょう。
 
 本業以外の資産売却や評価替えによる益出し、または不良債権の処理損などは、特別損益を注意深く見ればわかります。
 いずれにせよ、本業の赤字を糊塗して黒字に見せかけ、経営者の体面維持や株価対策を図るのは邪道といわなければなりません。

●計数は習うより慣れるが勝ち!

 これまで駆け足でポイント解説をしてきましたが、損益計算書とはどんなものか、およそのイメージはつかめたでしょうか?
 子供の百マス計算とおなじく、「数字は習うより慣れよ」というのが上達の秘訣です。

 後は、決算書の現物に当たったり参考書で掘り下げたりして、知識と技能を磨いて欲しいと思います。
 資料はなるべく薄いものを、繰り返し熟読するほうが効果的でしょう。
 売上げや利益は日常の職務に関係するので、損益計算書は理解しやすいのではないでしょうか?

 営業スタッフなら、営業利益か経常利益の段階まで、経営幹部なら、最後の当期純利益までを、それぞれ対応する3つの収益と5つの費用を視野に入れて読めばよいのです。
 3つの収益とは、売上高と営業外収益、特別利益です。また、5つの費用とは、売上原価と販売管理費、営業外費用、特別損失および法人税等をいいます。

 初心者なら、個人(自分)の年間報酬と会社の(総)人件費、自分の稼ぎと会社の利益率、会社はいくら借金があるのかなど、わが身の回りと関連付けて決算書を読むのも、数字に早く慣れる方法といえるでしょう。


(以上で1~5回完了)

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