貸借対照表

2008/12/18

バランスシートの仕組み(B/Sポイント講座①)

貸借対照表(B/S)の仕組みを知ろう!

●骨組みは資産、負債、純資産の三つ!


 貸借対照表は、資産と負債、純資産の三つの関係から、一定時点における会社の財政状態を示した一覧表です。

  一定時点とは、決算日(期末)のことで、表の肩にかならず「○年○月○日現在」と表示することになっています。
  この表は、左右見開きの対照形式になっていて、左側(借方)「資産の部」には、事業に投下した資本をどう運用したか、右側(貸方)「負債・純資産の部」には、その資本をどう調達したかが示されています。

  資本の調達は、自己資本(純資産)か他人資本(負債)ですが、その内容は、負債・純資産の内訳を見ればに詳しくわかります。
  会社は、その資本で商品や設備などの資産を購入し、収益活動を行うわけですが、その資産の内訳は、資産の部に詳しく書いてあるのです。

  バランスシートは財政状態の一覧表と前述しましたが、これを読めば、資本はどこから集めどう使っているか、その運用・調達状況が一目でつかめるわけです。

●流動資産と固定資産はどう違うのか?

  資産には、短期の「流動資産」と長期の「固定資産」があります。
  流動資産は、原則として1年以内に現金化する営業資産です。これはおもに現金・預金と売上債権(受取手形・売掛金)、棚卸資産(商品在庫・仕掛品)などをいいます。

  固定資産は、資金が1年以上の長期にわたり固定化する資産です。これは機械設備と土地建物、差入保証金や長期有価証券が含まれます。
  設備に投下した資金の回収には、長い時間がかかります。しかも、大きな資金が固定化しますが、これもまた事業展開には欠かせない資産なのです。

  一方の負債は、他人から借用した資本なので他人資本ともいいます。
これは後で、貸主や債権者に返済しなければなりません。
  これにも、原則として一年以内に返済する流動負債と、長期間に返済すればよい固定負債の二つがあります。

  流動負債には、おもに買掛債務(支払手形・買掛金)と短期借入金が、固定負債には、長期借入金や社債などが含まれます。
  一般的には負債は少ないほうがよく、同じ負債なら短期(流動)より長期(固定)のほうが、経営は安定するでしょう。

●自己資本が十分あれば会社は安泰!

  自己資本は、自前の調達ですから返済不要で、長期に安定して使える資本ということができます。
  これは、株式による払込資本(一般にいう資本金)のほか、資本剰余金や利益剰余金など内部留保による増殖資本を加えた純資産合計のことです。

  資本金と自己資本を混同する人が多いのですが、資本金は、純資産合計(自己資本)の一部であることを覚えておきましょう。
  ですから、自己資本は大きいほど会社は健全で、財務基盤は安定すると考えてよいでしょう。
  逆にこれが少ない会社は、他人資本(負債)に頼ることになり、経営はそれだけ不安定といわなければなりません。
 
  バランスシートのキーワードは、流動資産と固定資産、流動負債と固定負債および純資産合計の五つの数字です。
  これを、3ケタくらいの大きな数字で読みとり、会社財務の全体像を大まかにつむことが先決でしょう。

  貸借対照表がバランスシートといわれるのは、左側の資産合計と右側の負債・純資産合計の数字がかならず一致するからです。
  これは、複式簿記(正規の簿記)の魔術ともいうべき優れた効用です。
この関係を踏まえ、資産から負債を引けば純資産の計算ができます。

・資産(B/S左側)=負債+純資産(B/S右側)
・純資産=資産-負債(これを資本方程式という)

≪ワンポイント・アドバイス≫

●大きな数字で全体像をつかもう!


  売上げと利益主体の損益計算書に比べると、バランスシート(貸借対照表)には、資産や負債など見慣れない用語が多く、難しく思うかもしれません。
  しかし、一覧表の大項目は資産と負債および純資産の三つ,中項目は流動資産と固定資産、流動負債と固定負債および純資産合計の五つだけです。

  これを、頭から3~4ケタくらいの大きな金額で読みとり、資本の運用・調達の全体像をつかむことが大切なのです。
  最初から細かい数字にこだわり、重箱の隅をほじるような態度は控えるべきでしょう。
 
  まず、会社の特徴や目指す方向性を知ることが大切だからです。 
  流動資産と固定資産はどちらが大きいか。それは業種・業態など商売の形態(ビジネスモデル)とどんな関係があるのか?

  自己資本(純資産)に対し、他人資本(負債)は多すぎないか。負債は短期(流動)と長期(固定)のどちらのウエイトが大きいか?
  リース設備を利用すれば、固定資産と自己資本は節約できます。付属資料を見れば、リース資産や未払賃借料を調べることもできるはずです。

  こうして、数値の大小と各項目を相互に比べ、その背後にある要因をいろいろ想像してみるとよいでしょう。
  自社や競争企業の数値が具体的にわかれば、実際に検証することもできるのではないでしょうか?
 

●会計処理の方法は勝手に変更しない!

 
5つの中項目の中には、小項目(勘定科目)の数字がぎっしりと並んでいるので、はじめは圧倒されるかもしれません。

  各科目の並べ方は、より早く現金化するもの、より重要な内容の順と考えてよいでしょう。
  一般には、決算書作成ルール(会社法施行規則、財務諸表規則)の書式モデルを参考にして配列を決めています。

  ただし会計処理は、一度採用した方法を継続するのが原則(継続性の原則)で、勝手に変更するのはよくありません。
  決算の度に頻繁に変更すれば、株主や債権者など情報の受手側に誤解を招きやすいからです。
 
  中項目は、小項目の各科目をグループ化し合計した数字です。
  大きな数字の適否と原因をつかむには、羅列した小項目の中から、金額の大きい重要なものを押さえていけばよいのです。

  例えば、表の左側(借方)の流動資産が多いなら、その原因は現金預金か売掛金か、それとも在庫(棚卸資産)にあるのか内訳に着目します。

  右側(貸方)の流動負債の中身も、支払手形か買掛金か、または短期借入金か大きいものを見れば、資金繰り逼迫度や取引上の信用度が 一応は推測できるでしょう。

  固定資産と固定負債、純資産合計についても、同じように大きい項目から小さい項目へとチェックしていけばよいわけです。

バランスシートの着眼点(B/Sポイント講座②)

貸借対照表を読むポイント!

●売上債権と在庫に注目しよう!


  流動資産の中では、キャッシュ(現金預金と短期有価証券)と売上債権(受取手形と売掛金)、棚卸資産(商品在庫など)および短期貸付金、前払金などがおもな科目といえるでしょう。
  キャッシュの手持高(手元流動性)は、金融情勢を考えながら、支払に必要な適正額を維持しなければなりません。

  最近は、キャッシュフロー重視の経営に転換し、即時の支払準備として十分なキャッシュを保有する企業が多いようです。
  キャッシュ以外の資産は、それぞれ圧縮合理化と有効活用が至上命題ですから、金額の大きいもの過剰なものに着目します。
 
  また、貸付金や前払金が2期以上も長く続いて残るのは、不明朗な使途や特殊事情によることが多いので、さらに掘り下げてみる必要があります。 
  売上債権は、決済日には現金入金し、商品在庫も販売代金の回収でいずれ現金に代わります。


  それを繰り返すことで営業循環が続くわけですが、ときには、代金のコゲつきや回収不能の恐れもあるでしょう。
  そのため、一定の取立不能見込額を「貸倒引当金」として金銭債権から控除し(資産の減少、費用の増加)、会社をl守るため不測の事態に備えることになっています。

  財務の健全性を維持するため、売上債権や貸付金に対し適切な引当金を計上しているか、しっかり監視することを忘れてはなりません。
  もし貸倒引当金を過小操作すれば、自己資本を底上げし利益の過大表示ができるからです。

●固定資産と減価償却費に注意しよう!
  
  固定資産は、有形、無形および投資等の三つに区分されます。
  有形固定資産とは、形のあるもので土地建物や機械装置、車両運搬具および備品類です。
  無形固定資産とは、形のないもので特許権などの知的財産権、営業権、自社利用のソフトウエア、差入保証金が含まれます。

  投資等とは、長期有価証券(子会社や関連会社への投資)、長期貸付金、保険積立金などです。
  これらの内容から経営スリム化の程度、資本集約(重装備)型か労働集約型か、知識集約型かなど会社の特徴を知ることができるでしょう。
 
  土地を除く固定資産には、「減価償却」の制度があります。
  これは設備などの購入資金を、一定期間(耐用年数)に分けて毎年経費として計上し、長期的に回収する会計方法です。
  減価償却費は、損益計算書の販売管理費に当期分を計上し、累計額は、バランスシートの欄外か注記表に表示するのが普通です。

  多額の投資費用を一度に経費(損金)化すれば、費用・収益の対応関係が無視され、その年は赤字決算になってしまうでしょう。
  投資の効果は、将来の収益となって長く続くので、資金は長期間に回収されると考えるからです。
  そこで、固定資産に対し減価償却費を適正に計上しているか、財務健全性の視点からよく注意して見なければなりません。
  これも貸倒引当金と同じく、過小計上すれば利益の水増しと、自己資本の底上げにつながるからです。

●自己資本は資本金の何倍あるか?

  資産の膨張は、それに見合う資金需要を生じるので、資本の調達が必要になります。
  調達方法は、大別して自己資本か他人資本(負債)のどちらかです。
  流動負債は、支払手形と買掛金、未払金および短期借入金、賞与引当金などがおもなものです。
  固定負債は、長期借入金と社債などで、退職給付引当金も含まれます。

  負債による調達手段は、企業間信用(買掛債務)か金融(借入金、手形割引)または資本市場(社債、コマーシャルペーパー、資産担保証券)というように多様化してきました。
  しかし、短期運用の資金は短期または長期の調達、長期運用の資金は、長期の調達によるのが原則です。
  最も悪いのは、長期運用(固定資産)に対し短期の調達資金(流動負債)を充てるケースで、そうなると、会社が火の車になるのは時間の問題といわなければなりません。
 
  自己資本(株主資本または純資産)は、資本金と資本剰余金、利益剰余金および自己株式の4つに区分されます。
  これは資本金の何倍あるかが目の付けどころで、これにより、自前でいくら資本を増やしたか、会社の本当の実力がつかめるでしょう。
  その反対に、倒産寸前の会社は、自己資本がマイナス(赤字)で負債超過(負債合計>資産合計で純資産はマイナス)の状態になります。

  自己資本は一挙に増やすのが難しいため、つい他人資本に依存するのですが、これが度を越すと資金繰りが苦しくなるのです。
  無謀な拡大路線と事業投資で、借入返済が難しくなり経営破綻に至るケースは少なくありません。
  バランスシートでは、純資産合計と固定資産をくらべてみれば、そのあたりの事情はよくわかるはずです。
  なお自己株式とは、会社が出資者から買い戻した株式で、いわゆる金庫株のことです。この数字は決算書上はマイナス(△)表示になります。

≪ワンポイント・アドバイス≫

●管理者・マネージャーは管理会計を学ぼう!


  決算書は、財務会計(制度会計)のルールにもとづいて作られるため、簿記・会計用語がそのまま使われています。
  しかし管理会計では、独自の用語を使うことが少なくありません。
  例えば、負債・純資産合計を「総資本」、負債を「他人資本」、純資産合計を「自己資本」(株主資本、純資産ともいう)と呼んでいるのです。

  そこで、負債・純資産対経常利益率とはいわず、総資本利益率(経常利益/総資本)というのが通例になっています。
  日ごろよく耳にする自己資本比率(自己資本/総資本)も同じく、負債・純資産対自己資本比率とはいいません。
  これらの用語は、まず意味をよく理解することが大切で、慣れれば抵抗なく頭に入るので心配することはないでしょう。

  簿記会計の知識をマスターするには、かなりの時間と根気が必要なため、大半の人は途中でギブアップするといわれます。
 しかし、経営分析や損益分岐点、ABC(活動基準原価)管理などは、財務会計ではなく管理会計の理論です。

これは財務会計をベースにしながらも、経営管理に役立てるため、自由に展開する計数管理の手法といってよいでしょう。 
 帳表や決算書を作る仕事は財務担当者にまかせ、管理者は、それを読んで経営に生かせばよいのです。
  ですから、営業や企画マンは、まず管理会計の基本から勉強するようお勧めします。
 

●バランスシートで管理手腕を磨こう!

  資産は、収益活動のための準備ですから、事業計画によりその規模と内容が決まってきます。それがバランスシートの資産の部、つまり資本の運用面です。
  その資産を購入するには、必要な資本を調達しなければなりません。それが負債・純資産の部、つまり資本の調達面なのです。

  そこで、五つの数字から資本の運用・調達の流れをつかみ、相互のバランス状態を検討することが大切といえるでしょう。
  さらに、「着眼大局、着手小局」が肝心ですから、細かい中身は全体を俯瞰した後でさらに追求していきます。
 
  資金の流れからもわかるように、運用面で資産をスリム化し有効活用すれば、それが調達面の資金余裕につながるわけです。
  一方、同じ売上高を上げるなら、使う総資本(総資産)は少ないほうが効率的で、より優れた経営といえるでしょう。

 損益計算書では、売上げと利益のプロセスはわかっても、そこに投入した資本の効率はつかめません。
  ですから、バランスシート(貸借対照表)を熟読玩味して、財務改善に役立てたる必要があるのです。
  中小企業でも、会社を伸ばす経営幹部は、バランスシートの要点をしっかり押さえ、資本効率を軸に舵取りと軌道修正をしています。

支払能力と財務基盤(B/Sポイント講座③)

バランスシートから何がわかるか?

●支払能力は心配ないか?

 
 キャッシュフローが潤沢で手元資金に余裕があれば、営業経費や仕入代金の支払は問題ないでしょう。
 一般に、支払能力を財務流動性ともいいますが、これは、流動資産と流動負債の大きさから判断することができます。

 入金予定の流動資産が支払う流動負債より少ないと、不足資金を補うため、支手決済や借金返済に追われ金繰りに苦労するのです。
 前者は後者の1.5倍くらいが、安心の目安とされています。
 流動資産が多いのに資金繰りが多忙なら、在庫を除いた当座資産(現金預金と売掛債権)と流動負債を比べてみるのもよいでしょう。
 
 つぎに問題となるのは、流動資産の回転(換金性)です。
受取手形や売掛金、在庫には大きな資金が滞留するので、早く回転しキャッシュを回収しなければなりません。
 ですから単純に、流動資産が多ければよいとはいえないのです。

 流動資産(キャッシュを除く)は生産・販売のための準備ですから、これで売上を大きく稼ぎ、さらに、流動負債を少なく抑えた状態が望ましいわけです。
 また、資産の膨張を売上増加率以内に抑える視点も大切でしょう。
 キャッシュフローの改善は、利益の増加と売上債権の早期回収および在庫圧縮の3つが着眼ポイント、といわれるのも資産の回転を示唆しているのです。

●財務基盤は安定しているか?

 当面の支払能力のつぎに重要なのは、会社の財務基盤つまり長期的な資金力で、これを財務安全性と呼んでいます。
 他人資本+自己資本=総資本(100%)から、自己資本が少なければ、それだけ他人資本の依存度は高くなることがわかります。

 他人資本(負債)はおもに、買掛債務と借入金、社債ですから、取引先への支払や元利返済が資金逼迫の原因となるのです。
 ですから、長・短期借入金や社債残高とその増減変化は、必ずチェックしなければなりません。
 
 自己資本(株主資本または純資産)は、総資本の30~40%以上が望ましく、それ以下は過小資本で財務基盤は不安定といえるでしょう。
 自己資本の充実には、利益を上げて内部留保を積みまし、業容拡大にあわせ計画的に増資する取組みが重要なのです。

 安全性は、一つは自己資本の大きさ(自己資本比率)、二つには自己資本と固定資産とのバランス(固定比率)で、これを裏返せば、他人資本の依存度と長期資本の問題を意味します。
 適度の借金導入はやむを得ないとしても、最後は、自己資本を充実することが強い会社の前提条件となるのです。
 大型の事業投資で、一時的に自・他資本の均衡を崩しても、つねに財務内容に注意しながら、長期的に回復することを忘れてはなりません。

●事業投資に無理はないか?

 自己資本充実は資本構成上の利点ですが、他人資本と比べるだけでなく、固定資産とも比べてみる必要があります(固定比率)。  
 大きな資金が固定化する固定資産には、返済不要の自己資本を充てることが鉄則だからです。
 もし短期返済の流動負債(買掛債務や短期借入金)を充てれば、財務バランスは崩れ、資金繰りが火の車になるのは明らかでしょう。

 ですから、固定資産の大きさに見合った自己資本の蓄積が欠かせないわけです。 
 万一、自己資本が不足のときは、長期に返済する固定負債(長期借入金や社債)で補充することも考えられます。
 この場合は、自己資本と固定負債を合わせた資本調達と、固定資産による資本運用とのバランスを見ることになります(固定長期適合率)。

 こうして、固定資産と自前の資本または長期負債を加えた資本とのバランスから、事業投資に無理はないか、会社の財政基盤は安泰かどうかが確かめられるのです。

≪ワンポイント・アドバイス≫

●二つの決算書で複眼的にアプローチ!


 会社は、赤字で倒産するのではなく、直接的には、資金不足による支払不能と手形不渡りで破綻するのです。
 「勘定合って銭足らず」や黒字倒産は、バランスシートを無視または軽視した舵取りの結果ではないでしょうか。
 損益計算書だけでは、資金の動きは簡単にはわかりません。儲けがあっても、資金ショートで支払困難となれば、会社は万事休すというわけです。
 
 儲けの勘定と資金繰りは車の両輪ですから、一方だけの安全運転は至難の業と自覚すべきでしょう。
 ですから、損益計算書とバランスシートの両面から、経営実態を正確に読み取ることが大切なのです。
 さらに、大企業の管理者なら、これにキャッシュフロー計算書をあわせて利用するとよいでしょう。

●資産の活動性と収益性もつかもう!

 財務の流動性と安全性は、バランスシートだけで判断できますが、さらに損益計算書を使えば、資産の活動性と収益性を評価することができます。
 各資産の活動性は売上高との関係から、売上債権と棚卸在庫、固定資産の回転率(資産回転率)を見ることになります。
 
 資産(資本)の収益性は、二つの決算書から資本利益率(総資本利益率、自己資本利益率)を計算し、その良否を判定することになります。
 決算書の数字をそのまま読むより、相互に比べて経営比率を検討すれば、実質的な中身や隠れた内容が浮き彫りになるでしょう。

 それらの手法は、「経営分析ポイント講座」や拙著『一瞬でつかむ経営分析すらすらシート』に詳しく解説していますので、参照して頂ければ幸いです。

資産評価の方法(B/Sポイント講座④)

資産(会社の財産)はどう評価するか?

 資産をどう評価するかで会社の損益と財産価値が変わるため、これは大変重要な会計課題なのです。
 原則として、従来の取得原価(簿価)主義から市場価格による時価評価主義に変わりました。
 
  評価方法は資産の種類(B/Sの左側、資産の部)により異なりますが、その要点は次の通りです:-


*金融資産(流動資産) → 
短期所有の有価証券(株式、債券など)は時価評価による
*金銭債権(流動資産) → 
売上債権、貸付金などは貸倒引当金を計上する
*棚卸資産・在庫(流動資産) → 
取得原価による先入先出法(FIFO)、平均原価法または売価還元法などで評価する(後入先出法LIFOは国際会計審議会により認められなくなった)

*機械設備など減価償却資産(有形固定資産) → 
減価償却(定額法または定率法など)による
*特許権・のれん(無形固定資産) → 
原則として一定期間(5年)の均等償却による
*投資有価証券(投資等) → 
原則として時価評価(ただし非上場の子会社株式は取得原価)による

*創業・開業費(繰延資産) → 
一括または一定期間(5年)に均等償却する
*社債・株式発行費 → 
一括または均等(3年)、または社債償還期限内に償却する

●時価会計とは?


 時価会計は、会社が所有する金融資産を市場価格(売買時価)で評価し、決算書に表示する会計制度です。
 対象となるのは、売買目的の株式・債券などの短期有価証券と、金融派生商品(デリバティブ)および企業間の持合い株式です。

 従来は、資産を購入した時の取得原価(原価基準、簿価)で評価してきました。
 しかしこれが時価基準にかわれば、金融資産の含み損益(時価と取得原価との差額)を決算書に計上しなければなりません。

 そうなると、デリバティブ取引などの簿外処理(オフバランス)はできなくなり、温存する含み損益が表面化(オンバランス)します。
 株式などの含み益に頼ってきた会社は、時価会計の導入により大きな影響を受けることは明らかです。

 その結果として、つぎのことが指摘できるでしょう。
①含み損益による毎期決算の利益調整が難しくなる
②株式持合いの解消とリース資産の見直しが進む
③時価基準による企業間比較が容易になり、総資産利益率(ROA)や自己資本利益率(ROE)重視の効率経営に取り組むようになる

●減損会計とは?

 減損会計とは、時価が原価より大幅に下回ったとき、損失処理を義務づける会計方法です。

 対象となるのは、有形・無形の固定資産と投資ですが、おもな狙いは、いわゆる「塩漬け」状態にある投資不動産の含み損処理だといわれています。
 また、販売用不動産を流動資産から固定資産に移す、損失隠しの封じ込め対策でもあります。
 
 時価会計は、評価益と評価損をともに取り上げますが、減損会計では、評価損だけが問題になるわけです。

 会計処理の手順は次のようになります。
①減損が発生したとみられる資産を選別する
 これには、土地建物と機械設備のほか特許権や営業権、さらに財テクによる投資不動産もふくまれる。

②減損会計の対象となる資産を特定する
 簿価と将来回収できるキャッシュフローを比べ、減損損失が発生したかどうかを確認する。

③減損額を具体的に計算し会計処理する
 将来のキャッシュフロー回収額と現在の売却額を比べ、高いほうを回収可能額とみて、簿価からそれを引いた額を減損損失に計上する。

●税効果会計とは?

 税効果会計は、会計と税法のズレを調整し、税金コストを毎期平均化する会計処理です。

 会計上の利益と税法上の所得(益金-損金=所得)はことなり、税金は、利益ではなく所得によって計算されます。
 例えば、法定限度をこえる減価償却費や引当金、不良債権処理などは、会計では費用ですが税務上は損金にならず、原則として課税の対象となるのです。

 ですから、設備などの有税償却をするときは、決算後の納税申告書で利益と課税所得の調整をしなければなりません。
 税効果会計は、このように企業会計と税法による納税時期のズレを調整し、前払税金と後払税金(繰延税金資産と負債)を出して、毎期の税負担を平均化しようという会計処理なのです。

 これは、支払の時期を繰延べる手続きですから、納める税金の額が変わるわけではありません。
 実際には、所得を調整して損益計算書に法人税等調整額をしめす「繰延法」と、利益積立金を修正して、バランスシートに繰延税金資産または負債をしめす「資産負債法」の2つの会計処理が必要になります。

 税効果会計は、決算上の利益と税務上の税額を関連づけ、業績に見合った適切な税金コストをつかもうというのが根本の考え方です。
 しかも、税引後の利益を重視した業績評価ができるため、株主には大事な判断基準といえます。

 また、自己資本の低下を避けながら、不良債権処理が進められるメリットもあります。
 これから銀行融資や社債発行の際には、税効果を反映させた財務諸表の提出が求められるでしょう。
 
 しかし将来、前払税金の回収期間があまり長くなると、後からもどる税金の見積もりは難しくなります。
 収益予想が不確実で、将来減算するはずの課税所得が実際になければ、税効果は得られません。
 また、利益と自己資本のかさ上げにも利用できるので、乱用の歯止めが必要ともいわれています。

 そこで、税金の回収期間は5年以内に、3年連続欠損で今期も赤字の企業には適用しないことになりました。
 さらに、業績予測については取締役会で承認するなど、税効果会計の適正な運用指針も作成されています。

●退職給付会計とは?

 新会計制度(会計ビッグバン)には、上記のほか「連結決算」と「キャッシュフロー会計」および「退職給付会計(年金会計)」があります。
 ここでは、退職給付会計について簡単に説明しておきましょう。

 退職給付会計とは、会社が支払うべき退職給付(退職金と企業年金の総称)の責任額を時価でオープンにする会計制度です。
 社員が将来、確実に退職給付を受けられるよう、会社は必要な支給額を見積もり、それを時価に換算して退職給付引当金を必ず計上しなければなりません。

 多くの企業は、退職一時金は引当金として計上し、企業年金は外部に掛け金を拠出しています。
 これまで簿外資産としてきた年金資産の目減り額(いわゆる隠れ債務)は、これから時価会計で決算書上に表面化します。
 
 そこで、新しい基準による引当金(給付見込額-年金資産)の不足額を、どう埋め合わせるかが大きな課題になるのです。
 多額の積立不足は、会社の債務をふやし純資産(自己資本)の減少につながるため、社会問題にもなっているほどです。

 考えられる方策としては、次の3つのことが指摘できるでしょう。
①特別損失を計上し、赤字になっても構わず一度に処理してしまう
②持合い株式などの資産を信託に拠出して不足分を補う
③決算利益で15年以内に分割払いする

 企業側は、この負担増に歯止めをかけるため、退職給付制度や人事制度にメスを入れることが予想されます。
 確定給付型から確定拠出型(日本版401K)への移行、退職金の前払制度や年俸制採用による退職金廃止の方向が次々に打ちだされているわけです。


 中小企業には、この制度は強制適用されませんが、これまでの含み経営と決別し、バランスシート中心に資本効率を追求する絶好のチャンスと考えるべきでしょう。
 税法では、自己都合退職について一定限度の引当金しか認めていません。

 しかし退職給付会計では、将来予定される支払額の全額計上が前提条件となるため、膨大な不足額が発生するのは明らかです。
 中小企業でも、退職給付債務は経営責任としてきびしく受け止め、これから計画的に積み増していかなければなりません。

<ワンポイント・アドバイス>

●株式時価総額と企業価値の評価

 会社の時価総額は、資本市場が評価した企業価値の一面ということができます。
 発行済み株式数に、その時の株価を掛けたものが「株式時価総額」(時価総額ともいう)です。

 これは、企業価値を株主の立場から評価した数字で、企業の成長性と含み資産を織り込んだ総合的価値を表すものです。
 国際的な企業間比較やM&Aでは、時価総額(実際には1株あたり純資産)を尺度として企業価値を評価します。
 
 
また、これを他の経済指標と比べ、市場の過熱・沈滞ぶりを推計したり、マクロ経済における株式市場の規模を測ったりすることもあります。

 従来の財産法では、株主資本を企業の「解散価値」と考えました。
 
しかし、実際に資産・負債の中身を精査すると、正味の評価額は財務諸表と大きく異なるのが通例です。このことは、バブル崩壊による負の遺産整理で経験した通りです。

 このように時価総額は、資本調達市場の評価を尊重する点で優れているのですが、これは毎日変わり、投資家の投機性や心理要因の影響を避けることはできません。

●キャッシュフロー経営ではEVA・MVAを重視

 やや難しくなりますが、企業価値について最近の先進的な考え方をご紹介しておきましょう。
 企業価値を測るモノサシは、投資家、債権者、消費者など評価者により異なるのが普通です。

 企業内でも、経営者は業績評価について当然、強く意識しています。
 株式市場では、これまで1株あたり利益が株価を決める要因とされ、ROE(株主資本利益率)に注目してきました。

 しかし、事業活動と資本市場のグローバル化が進み、キャッシュフローを重視した企業価値がいまや世界標準になろうとしています。
 キャッシュフロー(CF)の拡大は、投下資本の効率を高め、企業価値と株主価値を大きくすることは明らかです。
 
 企業価値とは、割引フリーCF(将来のフリーCFを資本コスト率で割引いて現在価値に換算する)であり、株主価値とは、企業価値から有利子負債を引いたものです。

 新しい指標の一つに経済的付加価値(EVA)があり、先進企業では、企業価値を高める経営目標として導入しています。
 EVA=税調整後CF営業利益-投下資本×資本コスト率。
 また、EVAの累計(現在価値に換算)を、市場付加価値(MVA)と呼んでいます。
 
 なお、EVA(Economic Value Added)は、米国スターン・スチュワート社が開発した商標です。

以 上

会社法と計算書類(B/Sポイント講座⑤)

会社法で会社の計算はどう変わったか!

①剰余金分配と組織編成が大幅に自由化された!

●利益処分計算書に代って株主資本等変動計算書を作成


 会社法による決算書の種類は次の5つになります。

・貸借対照表(B/S) ⇒ 財政状態(資産・負債・資本)を示す
・損益計算書(P/L) ⇒ 一会計期間の経営成績を示す
・株主資本等変動計算書 ⇒ 資本金、剰余金をふくむ純資産の変動状況を表す(従来の利益処分計算書はなくなりました)

・事業報告 ⇒ 会社の業務や財政状況の重要事項を説明する(従来は営業報告書と呼んでいたものです)
・注記表および付属明細書 ⇒ 決算書の内容を補足し詳しく説明する

 これまで利益処分で行われていた手続き、例えば、利益金の配当や剰余金の資本組入れ、任意積立金の計上などは、会社法では、決算確定手続とは無関係に期中いつでも行えるようになりました。

 そのため、計算書類の体系も見直され、利益処分案(総会決議後は利益処分計算書)は不要になったわけです。
 その代わり、配当原資となる剰余金の変動等を表す『株主資本等変動計算書』を作成しなければなりません。

 また、従来の「営業報告書」は、「事業報告」に名称が変わりました。

●利益配当(剰余金の分配)はいつでも何回でも可能に

 会社法では、株主配当は株主総会の決議によりいつでも可能となりました。
 配当の回数は、これまで通常の期末配当と中間配当の年2回でしたが、これからは、分配可能額の範囲内なら、回数に制限を設ける合理的理由はないとされました。

 そこで利益配当は、株主総会決議または定款に定めれば、取締役会決議でいつでも、また何回でも行えることになったのです。
 配当や自己株式の有償取得など、会社財産が株主に払い戻される手続きは、「剰余金の分配」として整理され統一した財源規制の下に置かれます。

②どうなる中小会社の会計制度!

●有限会社が廃止され株式会社に統一された


 有限会社は廃止して株式会社に一本化し、最低資本金規制は撤廃(設立時の出資額を自由化)しました。
 ただし、従来の有限会社はそのまま存続可能で、法的には「特例有限会社」として株式会社並みの扱いになります。

 また、会社設立時の資本金は自由(資本金1円でも可能)ですが、純資産(自己資本)300万円未満の会社は利益配当ができません。
 ですから利益配当をするには、自己資本(総資産-総負債)の額を300万円以上にする必要があります。

●当事者による定款自治が拡大した

 定款自治の原則が確立し、当事者が会社の定款に定めれば、様々な企業の形態(機関構成)が可能になりました。

 例えば、取締役会のない株式会社や株式譲渡制限会社(おもに中小会社)、取締役会の書面決議(上場会社の定款自治)や総会決議による株式売渡請求(株式譲渡制限中小会社の相続対策) なども考えられます。

 極端にいえば、資本金1円で取締役1人(これまでは3人以上が必要でした)、監査役なしの株式会社を設立することもできるわけです。

●会計参与を任意に新設することができる

 会社に会計参与(会計士、税理士がその資格者)を新設し、取締役とともに計算書類の作成ができるようになりました。
 ただし、取締役と同等の役割を担うことからその責任は重くなり、会計参与も株主代表訴訟の対象になります。

 これは、中小会社が経営計算と決算を正確に行い、対外的信用の拡大と資金調達の円滑化をはかるための措置といわれています。


<ワンポイント・アドバイス>

●新しく合同会社(LLC)が創設された

 合同会社は、日本版LLC(Limited Liability Company)といわれますが、法人格を持った新しい企業形態です。
 対外的には、株式会社と同じく有限責任制(出資額の範囲内でしか責任を負わない)が適用されます。

 一方、会社内部の運営や利益配分については、民法の組合と同じく定款自治(出資者・経営者間で自由にルールを設定できる)が認められるのです。
 これにより例えば、出資割合が10%の出資者でも、50%の利益配当を受けることが可能となります。

●法人格のない有限責任事業組合(LLP)も誕生

 会社法ではなく有限責任事業組合法(LLP法)による組合で、法人格はありません。
 法人課税される合同会社(LLC)とは異なり、このLLP(Limited Liability Partnership)は、個々の組合員に所得課税される仕組み(パススルー税制、構成員課税)になっています。

 出資者の有限責任制と定款自治については、両者とも実質的には変わりありません。
 従来の有限会社に代わるものとして、この制度を産学連携やベンチャー企業と大企業の提携などに活かすことが期待されています。

 組合員として適当でない業務として、公認会計士と弁護士、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、海事代理士、税理士、社会保険労務士および弁理士が定められました。
 ですから、これらの職業人はLLPのメンバーになることはできません。

●会社法は平成18年4月から施行

 会社法は、これまでの商法第2編(合名会社、合資会社、株式会社)と商法特例法(株式会社大会社・小会社の特例)および有限会社法を一本化し、口語化したもので06年4月に施行されました。

 そこ(要綱)ではまず、4つの企業類型を想定しています。
・株式譲渡制限中小会社(従来の有限会社に近い)、
・株式譲渡制限大会社、
・公開(株式の一部でも譲渡制限をしていない)中小会社、
・公開(株式上場)大会社。

 そして各類型に取締役会や監査役、会計参与、監査役会の有無、さらに会計監査人と3委員会を加えて、合計20類型の機関設計(いろいろな企業形態のモデル)を例示しています。 

 なお、大会社とは資本金5億円または負債総額200億円以上の会社で、中小会社とはその金額未満の会社をいいます。中会社と小会社の区別はなくなりました。

 会社の計算については、会社法第2編「株式会社」、第5章「計算等」に規定されています。そして、さらに詳細な内容は法務省令(施行令)に定められています。


会社法をもっと知りたい人のための参考書と資料:


  ここでは要点だけをご説明しましたが、詳しくは小生の各著書(会社法対応版)をご覧下さい。
 さらに会社法を深く勉強したい方には、次の参考書・資料をお勧めします。

1.「会社法入門」 宍戸善一、成蹊大教授著
   日経文庫ベーシック、日本経済新聞社(2006年4月第5版)

 

2.「会社法入門」 神田秀樹、東大教授著
   岩波新書(2006年5月第5刷)
 上記の2冊は、会社法全般の初歩的な解説書です。


3.特集「新会社法の制定」、解説は江頭憲治郎、東大教授
   有斐閣 Jurist No.1295号(2005年8月刊)
 会社法制定までの経緯とねらいが詳しく紹介されています。

4.NEEDSネット・セミナー、「新会社法で変わる財務諸表1~6回」
   辻山栄子、早稲田大教授(企業会計基準委員会委)                     http://www.nikkei.co.jp/needs/analysis/06/a060705.html

 会社法で財務諸表がどう変わるのか、その要点をわかり易く説明しています。

5.「図解・わかる!商法改正」 浜辺洋一郎、弁護士著
   ダイヤモンド社(2002年7月初版)
  最近の商法改正の経緯と要点がよくわかり、その延長上に新会社法が位置づけられることが理解できます。


6.「事業再編のための企業評価」 小林啓孝、慶応大教授著
   中央経済社(平成14年7月第2刷)
  企業の合併・買収やMBOなどを詳しく説明しています。


7.「新会計基準解説 A to Z」 松井康則、立教大教授著
   一橋出版社(2000年12月初版)
  その後、改訂版または続編が出ていると思います。金融商品会計、ヘッジ会計などの解説をコンパクトに紹介しています。


8. 中小企業庁ホームページ
   Q&A形式で懇切に「中小企業と会社法」の解説を公開しています。

  http://chusho.meti.go.jp/zaimu/kaisya/kaisyahou33/

(第5回完了)

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