経営分析

2008/12/17

儲けとコストの分析(分析ポイント講座①)

会社は本当に儲かっているか!

 1.儲けを数字で正確につかもう
 会社の目的は、社会的責任を果たしながら、事業目標を実現することです。
 それには、「一定の必要利益」または「満足水準の利益」を稼がなければなりません。赤字がつづけば、会社は存続することができないのです。
 そこで先ず、誰もが知っている利益率の話からはじめましょう。

●儲ける力はあるのか → 売上総利益率
 商売の世界では、売上高は見かけの稼ぎで、そこから仕入原価などコストを支払った残りの売上総利益(粗利益ともいう)が実質の稼ぎです。
 ですから、販売数量や売上げではなく、粗利益を柱にすえた経営に方向転換しなければなりません。
 この粗利益は、人件費や家賃など営業経費(販売管理費)の原資となるものですから、まずこれをしっかり確保することが先決です。

売上総利益率=粗利益÷売上高×100%

●営業活動の成果を見る → 売上高営業利益率   
 粗利益の次に大事な利益が営業利益です。これは、会社の本業による儲けを表しています。
 本業が赤字なら経営者失格といわれても仕方ないでしょう。粗利益が十分稼げない昨今では、経費削減の内部努力(リストラ)によって、営業利益を絞り出す工夫が大切なのです。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100%

●事業活動の結果を見る  → 売上高経常利益率
 
会社の活動には、本来の営業活動のほか金融活動もあります。雑収入や支払利息など営業外収支を加減した儲けが経常利益です。
 借金依存体質の会社は、せっかく稼いだ営業利益の大半が支払利息で消えてしまい、赤字に転落するケースが多いので要注意です。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100%

2  会社のコストを知ろう

●適切なコストに抑えているか → 売上原価率
 第一のコストは、売上原価です。 
 粗利益を大きくするには、売上げを伸ばすか、売上原価を下げるしかありません。原価(コスト)をどう合理化し、削減するかが緊急の課題になるわけです。
 流通業では、売上原価=期首在庫+当期仕入高-期末在庫ですから、在庫もコストに関係してきます。
 製造業では、売上原価=製造原価となり、これは原材料費+外注費+労務費+製造経費を合計したものです。

 [計算式]  売上原価率=売上原価÷売上高×100% 
 別の見方をすれば、売上原価率=100%-粗利益率となります。

●経費は多すぎないか → 販売管理費比率(営業経費率)
 第二のコストは営業経費です。
 典型的な放漫経営といえば、経費の膨張と在庫の増加、さらに売掛金の拡大というのが通例です。これは利益を圧迫し、資金繰りを苦しめる元凶ですから、気を緩めてはいけません。
 営業利益を確保するには、売上げ拡大よりコスト削減のほうがはるかに効果が大きいのです。同じ利益を出すには、コストの何倍もの売上高を増やさなければならないからです。

 [計算式] 販売管理費比率=販売管理費÷売上高×100%

●適正人件費はいくらか → 売上高人件費比率
 人件費は給料・報酬のほか福利厚生費も入れた総額です。これに、教育研修費や募集費を加えることもあります。
 「事業は人なり」といわれるように、企業の成長は最後は人材が勝負ですから、少数精鋭による高能率・高賃金を目指したいものです。 

 [計算式] 人件費比率=人件費÷売上高×100%(流通業)
            =人件費÷生産高×100%(製造業)
 製造業では、人件費(販売管理費)と労務費(製造原価)
 の合計、また生産高=売上高-製品仕入高。

3  分析結果はこう読む

 これまで会社の損益計算書の骨組みにあわせ、売上高に対する3つの利益率と3つのコスト比率を見てきました。
 実際にあなたの会社の比率をそれぞれ計算し、次のように比較してみましょう。その実力や位置づけがわかってくるはずです。

・過去の実績(前期、前々期)と比べる(期間比較)
・目標・計画の数値と比べる(目標・実績比較)
・業界の平均指標と比べる(標準比較)
・同じ時期の他企業と比べる(相互比較、ベンチマーク)

  経営活動はかならず、稼ぎ(売上げなどの収益)-コスト(売上原価、営業経費などの費用)=儲け(3つの利益ほか)を計算し、後始末をつけることになっています。これが会社の決算です。
 儲けを確実なものにするには、稼ぎをいかに増やしコストをどう減らすか、創意工夫と才覚が肝心なのです。
 各分析比率から自社の長所と短所を浮き彫りにし、優先順位を決めて重点的に改善策を検討しましょう。

 ≪ワンポイント・アドバイス≫ 

●一人あたり利益額もあわせて見る
  低価格大量販売では粗利益率が低く、独自開発のブランド品やファッション商品なら、利益率の高い商売ができるでしょう。
 しかし、市場が成熟し競争が激しくなると、利益率はやがて低下するのが普通です。
そこで利益率とあわせ、社員一人あたりの粗利益額(生産性)が問題になります。
 利益率より利益額を重視する、いわゆる薄利多売型のビジネスもあるからです。

●原価率の低いビジネスに変えよう
  材料を加工販売する惣菜小売業や飲食業は、一般の物販業に比べると原価率が低いため、かなり高い粗利益率の商売をすることができます。
 また、サービス業のように仕入原価の少ない業態では、売上げの大半が粗利益になるので、粗利益率は50%を超えるのが普通でしょう。
  廃業する製造業や小売業が増える一方で、今、情報通信と医療福祉、教育・学習支援などのサービス分野では、盛んに企業が増えているのです。

●粗利益-営業利益=販売管理費に注目する 
 粗利益の獲得は、事業戦略やマーケティングの適否を反映します。
 もう一方の営業利益は、経費削減などおもにマネジメントの問題といえるでしょう。
 なお、経営比率の見方や業種別平均値(中小企業の財務指標)については、拙著「一瞬でつかむ経営分析すらすらシート」に詳しく解説しています。

資産回転率の分析(分析ポイント講座②)

会社の活動力をつかもう!

 1.資産に見合う収益を上げているか?
   経営効率をつかむには、売上げや利益だけでなく、事業に投入した資本(資金)のことも考えなければなりません。
 なぜなら、より少ない資金で多くの売上げや利益を稼ぐ方が、上手な経営といえるからです。

 会社の資本は、商品や設備などの資産(B/Sの流動資産と固定資産)に変身して収益を生み出すので、資産の収益性を分析すれば、資本の効率がわかります。

 
●事業資金は有効に生かしているか → 総資本回転率

  資本は全体として、有効に活用し収益をあげているか。それを知るため、売上高が総資本(総資産)の何倍(何回転)あるかを見るのです。
  回転率は、大きい(早い)方が効率のよいことを意味します。

  総資本とは、負債・純資産合計(バランスシートの右側)のことです。これは総資産(左側の資産合計)の数字と一致するので、総資産回転率を見てもよいでしょう。
  資産の内容は、売上債権、在庫(棚卸資産)および設備ですから、それぞれ回転率を細かく検討することができます。

[計算式] 総資本回転率(回転)= 売上高÷総資本(負債+純資産)
       総資産回転率(回転)= 売上高÷総資産(資産合計)

●遊んでいる設備はないか → 固定資産回転率
  土地建物や機械、店舗施設などの固定資産は、生産と販売にどれだけ貢献しているか。それには、固定資産がその何倍の売上高を稼いでいるかを見ます。

  この回転率が低い(遅い)会社は、設備の稼動状況が悪いか、過剰設備や遊休資産の多いことがわかるでしょう。ただし、リース設備は自社のものではないので、固定資産から除いて計算します(リース会計を採用していない中小会社の場合)。

  また、小売業でよく使う坪効率(売場面積あたり売上高)は、店舗を設備と考えれば、一種の設備回転率とみることができます。

  1年間の売上高を見る「年坪効率」(1坪当たりの年間売上高)と、1ヶ月の売上高を見る「月坪効率」(1坪当たりの月間売上高)がありますが、通常は年坪効率を使うようです。

[計算式] 固定資産回転率(回転)=売上高÷固定資産
       坪効率(金額)= 売上高÷売場面積(坪)

●ムダな在庫(商品)はないか → 在庫(商品)回転率

   売上げは在庫(棚卸商品)の何倍あるか、手持ち在庫は売上高の何日分あるか。または、商品の仕入れから販売まで、平均して何日かかっているか。この指標(在庫回転率、棚卸商品回転率など)から、そうした商品の動きの早さを知ることができます。

   この数字は、商品の売れ筋管理や仕入・在庫計画に欠かせない、大事な基本データとなるものです。問題は、回転率を出すには、帳簿と実地の在庫調べが必要になることです。しかし、マーケティングを成功させるためにも、在庫のチェックは頻繁に(月次,週次)行うことが大切でしょう。

[計算式] 在庫(商品)回転率(回転)=売上高÷在庫(商品)

   また、在庫の変動が激しい業種では、期末(月末)在庫高の代わりに平均在庫高を使うことがあります。その場合は、平均在庫高=(期首在庫高+期末在庫高)÷2として平均在庫回転率を計算します。
 

●代金は早く回収しているか → 売上債権回転率
  資金難による経営破たんや倒産を防ぐには、販売代金の回収管理を徹底することが先決です。売上債権は、受取手形と売掛金の合計ですが、この指標から、その回転率や回転期間がはっきりつかめます。

  さらに、顧客別の回転率を出せば、与信管理に応用することができるでしょう。
  ちなみに、支払債務回転率も同じよう算出できますが、その場合は、売上高の代わりに仕入高を使うのが普通です。

[計算式] 売上債権回転率(回転)= 売上高÷売上債権
         支払債務回転率(回転)= 仕入高÷支払債務


2.戦略重点をどこに置けばよいか?

●会社全体の経営効率を見る → 総資本利益率
 投入資金を最大限に活用し、会社はどれだけ利益を上げているか。その投資効率や経営体質の強さを見る指標が、総資本利益率です。

 売上高利益率は、儲けはわかるが資金効率を無視しています。また資本回転率は、資金効率はわかるが儲けが抜け落ちています。

 そこで、二つの比率を総合した指標が総資本利益率なのです。
 全社的な経営効率の評価には、利益率(収益性)と回転率(
活動性)を含むこの数字が最適と考えられています。

[計算式] 総資本利益率(%) = 売上高経常利益率×総資本回転率
= 経常利益÷総資本×100%

●体系的に追求し優先課題を絞る
  総資本利益率を頂点として、各比率を体系的に分析していけば、経営上のいろいろな問題点と原因が明らかになります。

   具体的にはまず、期間比較やベンチマークにより総資本利益率の優劣をつかみます。そして、その原因は利益率と回転率のどちらにあるのか、両系列の指標を追求していくのです。

  体質改革を画に描いた餅に終わらせないためには、問題を体系的に追及し、優先課題を戦略的に絞って行動しなければなりません。
 そして、計数による合理的な思考とリーダーの強い説得力のもと、組織を上げて問題解決に取り組むことが大切です。

●商品の販売効率をつかむ → 交差比率
  商品の販売効率を見る指標として、粗利益率と商品回転率を掛け合わせた数字が考えられます。これは、資本利益率の一種の応用といってよいでしょう。

 激しい競争で粗利益確保が難しい分野や薄利多売型のビジネスでは、回転率を上げることで販売効率を維持しなければなりません。

 商品別分析を踏まえて交差比率の目標を決め、粗利益を改善するか回転を上げるか、販売計画の立案によく利用される有益な指標となっています。


 [計算式] 交差比率(%) = 粗利益率×商品回転率
        = 粗利益額÷商品在庫高×100%


≪ワンポイント・アドバイス≫

●回転率の意味はなんとなくわかった?
 「利益率はわかるが、回転率は今ひとつピンとこない」というのが多くの声のようです。上記の説明で、大体の意味は理解できたでしょうか。
 回転とは、モノやお金の動きをいうので、(通常は1年間に)何回ころがせば売上高を回収できるかがわかるのです。

 ですから、1年365日を回転率で割るか、または回転率の逆数(1/回転率)を掛ければ、回転日数が計算できます。このことは
例えば、年に10回転の商品なら、1回転(仕入から販売まで)するのに36.5日かかることを意味します。

[計算式] 商品回転期間(日数)=365日÷回転率(売上高/商品在庫高)=365日×商品在庫高/売上高

  品回転期間(月数)=12ヵ月÷回転率(売上高/商品在庫高)=12ヵ月×商品在庫高/売上高

  また、期首と期末で在庫高が大きく変わる業種では、平均在庫高を使うのが一般的です。平均在庫高=(期首在庫高+期末在庫高)÷2 となります。

●数字の背景にある意味を考えよう!
  分析比率は、取り上げる勘定科目と数字(金額、数量)の背後に、それぞれ大事な意味が隠れています。

  利益率なら、なぜ利益を売上高で割るのか。売上高の代わりに資本で割ったらどうなるのか。回転率なら、どうして売上高(年間)を資産で割るのか。資産の代わりに資本で割るとどういう意味になるか。

 計算の根拠となる数字をよく吟味しながら、得られた指標の意味を判断することが基本的に大切なのです。この基本が身につけば、その先の応用範囲は格段に広がるでしょう。

 

流動比率と自己資本比率(分析ポイント講座③)

会社の資金力をチェックしよう!

1.資金の運用・調達バランスを見る
 売上げや利益がいくら増えても、支払資金が不足すれば経営は破たんします。「勘定合って銭足らず」や「黒字倒産」を防ぐためにも、会社の財務体質をよく知っておくことが大切でしょう。

●支払能力は万全か? → 流動比率、当座比率
 バランスシート(貸借対照表)から流動資産と流動負債を比べると、当面の支払能力(短期間の資金流動性)がわかります。

 流動資産は、現金・預金と売上債権(受取手形と売掛金)、在庫など1年以内に現金化する資産。
 流動負債は、支払債務(支払手形と買掛金)と短期借入金など1年以内に支払う負債です。

 この指標は、一般に130~150%が安心できる目安で、100%以下は注意信号ですから、早めに対策をとらなければなりません。

 そのほか、流動資産から在庫(棚卸資産)を除き、すぐ換金できる金融資産(当座資産)だけを対象とする当座比率があります。
 当座資産は、現金・預金と換金性の有価証券および売上債権ですから、入金予定と支払予定を比べてごく短期の支払能力を判断するわけです。

[計算式] 流動比率=流動資産÷流動負債×100%
       当座比率=当座資産÷流動負債×100%

●設備投資に無理はないか? → 固定比率、固定長期適合率
 店舗施設やIT投資は多額の資金を必要とし、しかも、その資金は長期にわたり固定化します。

 ですから、固定資産の取得には返済不要の自己資本(株主資本または純資産)か、それが不足なら、固定負債をあてるのが鉄則なのです。
 もし、短期返済の流動負債(支払債務や短期借入金)をあてれば、会社の台所は「火の車」となるのは明らかでしょう。

 このように、固定資産と自己資本を比べ、長期に固定化する資本の運用・調達バランスをみるのが固定比率です。

 しかし、大きな投資は長期の借入れや社債発行に頼ることが少なくありません。そこで自己資本のほかに、長期返済の固定負債も加味して考えようというのが固定長期適合率です。
 どちらも100%以下が理想的で、低い(小さい)方がよい指標です。

[計算式] 固定比率=固定資産÷自己資本(純資産合計)×100%
 固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100%

●財務の安全度を見よう → 自己資本比率
 資本の調達には、自前の自己資本(株主資本または純資産)と、他人から借用した他人資本(負債合計)があります。

 返済不要の自己資本が多く、返済義務のある他人資本が少なければ、財務体質は健全で不況抵抗力も大きいといえるわけです。
 そのため、自己資本の大小を見る自己資本比率が注目され、経営基盤の優劣判断によく利用されるのです。

 資本集約(重装備)型か労働集約(軽装備)型かなど会社の性格にもよりますが、この比率は50%以上なら優秀、30~40%なら平均水準と考えられます。
 20%以下なら自己資本不足、つまり負債過剰ですから財務は不安定と見てよいでしょう。

[計算式]自己資本比率=自己資本(資本合計)÷総資本(負債・資本合計)×100%

2.資本の調達方法を見直す
 資本の調達には、自己資本と他人資本(負債)があり、また、自己金融と他人金融(支払債務、借入金、社債)があります。
 最近は、調達方法が多様化していますが、使途に適合した資金源泉を考え、自他資金バランスの検討を忘れてはなりません。

●キャッシュフローをどう改善するか?
 キャッシュとは、現金預金と有価証券(現金同等物)のことで、バランスシートの左側、流動資産の一番上に計上されています。
 事業に必要なキャッシュは十分確保しているか、前期より増えたのか減ったのか、その理由は何かが問題になるわけです。

 余裕のキャッシュがあれば、借金返済や株主配当のほか、将来発展のため人材投資と研究開発、新事業開拓などに投入できるでしょう。

 正確なキャッシュフロー(流れ)を出すには、決算数字(B/SとP/L)の複雑な調整が必要ですが、大まかにいえば、当期純利益と減価償却費の合計とみてよいでしょう。

 これを改善するには、まず利益を上げることが根本で、さらに売掛金と在庫(現金預金以外の資産)を減らすことが大切です。
 その反対に、買掛金や借入金(負債)を増やせばキャッシュフローは向上しますが、これにはもちろん節度があるはずです。

 なお減価償却は、過去に支払った設備の購入代金を、当期の売上げで一部回収する会計処理です。償却費は、毎年経費に計上しますが実際の出金はないため、計算上はキャッシュが増加します。

[計算式] キャッシュフロー ≒ 当期純利益+減価償却費

●適正な借入限度額はいくらか? → 借入金/総資本比率
 過大な借金は、金融費用(金利)の負担や返済不能、そして経営破たんの原因となります。

 そこで、借入金/総資本比率を適度(期待水準は30~40%以下)に押さえる配慮が肝要なのです。
 資産の圧縮と活用で生産性を高め、コスト削減による利益捻出で借金を減らす努力が求められます。

 借入金も社債も無理のない限度額としては、自社が生み出すキャッシュフローの範囲内なら問題はないでしょう。

 とくに大型投資は、資金バランスを大きく崩すのが普通です。ハイリスク・ハイリターンとはいえ、投資案件のシナリオと財務指標を熟知し、リスクを最小限に抑える工夫が欠かせません。

[計算式] 借入金/総資本比率=(長短期)借入金÷総資本×100%

●内部留保の厚い会社は成長性が高い!
 財務面から成長要因をみれば、「キャッシュフローの創出」と「付加価値の拡大」、そして「自己資本の充実」となるでしょう。
   
 これに、元気な人材と知的資産の裏づけがあれば磐石です。
 自己資本の充実は、増資か内部留保しかありません。一朝一夕には難しいので、中長期目標を立て、時間をかけて計画的に蓄積していく必要があります。

 会社は決算完了後、税引後の当期純利益から株主配当などを分配し、残りの利益は社内に留保します。

 留保利益は、利益剰余金の中に積み立てられ、自己資本(株主資本、純資産)を増やします。
 会社の実質的な資本は、資本金ではなく自己資本ですから、内部
留保の厚い(多い)企業は成長性が高いと考えてよいでしょう。

 資本金は、株主が出資した払込資本を意味し、配当や議決権の根拠になります。また資本剰余金には、資産の評価益などが含まれます。
 大事なポイントは、資本金と自己資本をはっきり区別し、資本金以外の内部留保の大きさを見て成長性を評価することです。

[計算式]自己資本=株主資本(=資本金+資本剰余金+
利益剰余金-自己株式)+評価・換算差額等

≪ワンポイント・アドバイス≫

●財務の流動性と安全性を見極めよう!
 後半は話がやや難しくなりましたが、財務の仕組みと資金の流れが何となくつかめたでしょうか。

 会社は、調達した資金(資本)で資産を購入し、その資産(商品や設備)を使って売上・利益を稼いでいます。ですから、資産は収益を上げるための下準備といえるでしょう。

 バランスシートの資産・資本ストックを軸にして、損益計算書の収益フロー(収益-費用=利益)が循環している格好です。

 そこで財務分析では、資本の調達・運用のバランス、資産と負債の中身(ポートフォリオ)やキャッシュフロー、内部留保などを取り上げ、流動性や安全性の適否を判断するわけです。
 
 余談になりますが、こうした基礎知識があれば、マスコミで話題になる不良債権問題、資産・負債のリストラ、M&A(合併・買収)などについても、さらに理解が深まるのではないでしょうか。

 人件費は費用か投資か、期間損益(P/L)と内部留保(B/S)の関係は、非正規社員の費用は人件費か物件費(外注費)かなど、問題の本質に迫る理論武装に興味はつきません。

●財務を知ってスキル・アップしよう!
 「損益計算書はわかるが、バランスシートはどうも読めない」というビジネスマンは意外に多いようです。
 しかし、伸びる会社は大半の経営幹部が、財務に熱心でバランスシートを熟知し、日常の仕事に活かしていることも事実です。

 売上利益率より本命は資本利益率にあることからもわかるように、投資とリターンの視点で経営管理を実践したいものです。

 なお、決算書の詳しい読み方については、拙著「バランスシートの見方が面白いほどわかる本」と「損益計算書の見方が面白いほどわかる本」を参照していただければ幸いです。


(第3回完了)

生産性と人件費の分析(分析ポイント講座④)

人件費と生産性の関係を見よう!

1.適正な賃金水準とは何か?
 人件費はコスト(費用)ですが、人材を資産とみれば、一種の投資と考えることもできます。
 社員のモチベーション高揚と会社の持続的発展を両立させるため、総人件費をどう適正化するかを検討してみましょう。

生産性と分配率が決め手! → 賃金水準
 中小企業の賃金水準は、大企業の6~7割といわれています。
 これから中小企業が生き残るには、優れた人材を育て、少数精鋭の高能率・高賃金を実現していかなければなりません。

  賃金水準は、人的生産性(労働生産性)と人件費分配率(労働分配率)の大きさにかかってくるので、会社の人件費を考えるには、この分析が欠かせないのです。

 問題は、生産性にあるのか分配率なのか、よく見極めて冷静かつ客観的に向上策を議論すべきです。
 実際には、人件費(賃金水準)は労働力の需給関係や世間相場の影響も受けるでしょう。

 しかし、社員の生活設計を支援し会社の持続的成長と両立させるには、生産性と分配率による原理原則は決して無視できないはずです。

[計算式] 賃金水準 = 人的生産性×人件費分配率
       賃金水準(平均人件費)= 総人件費÷社員数

●仕事は効率的に進めているか?→人的生産性(労働生産性)
 これは、1人あたり付加価値(額)のことで、組織や社員のほんとうの稼ぎがわかる指標です。

  付加価値は、会社が創造した価値ですから、次のようになります。
 ・売上高 = 付加価値+外部購入価値
∴付加価値 = 売上高-外部購入価値
 
 これをわかり易くいうと、次のように考えればよいでしょう。
・卸売業・小売業→付加価値≒売上総利益(売上高―売上原価)
・飲食サ-ビス業→付加価値≒粗収入(売上高―原材料費)
・製造業・建設業→付加価値≒売上高-(原材料費+外注費)

 メーカーの場合は、生産高ではなく売上高を使います。付加価値は、販売してはじめて実現するからです。
  生産高基準の場合は、付加価値ではなく加工高(中小企業庁方式)と呼んでいます。

 社員数は、常勤役員と一般社員をふくみ、パート・アルバイトは8時間勤務につき1人と計算します。ですから、例えば4時間のパートなら0.5人になります。
  さらにこれを、年間の勤務日数や実働時間で割れば、1人1日または1人1時間あたりの生産性が算出できるはずです。

 会社の生産性はいくらか、たいへん重要な数字ですから、早速計算してみてはどうでしょうか。

[計算式] 人的生産性 = 付加価値(金額)÷社員数(人)
       人時生産性(1人1時間あたり生産性)
                        
= 付加価値÷社員数÷(年)実働時間

●いくら人件費に分配されるか?→人件費分配率(労働分配率)
 これは、付加価値の中から、いくら人件費に分配されるかを見る指標です。分配率を上げれば、賃金水準は高くなります。

 中小企業は、50~60%程度が普通ですが、問題は、あまり大きすぎると、利益を食いつぶし赤字経営に転落することです。
  そのため、内部留保による資本蓄積ができる範囲で、社員も会社も満足できる均衡点を模索しなければなりません。

 決算書から過去3~5年間の分配率を出し、客観的な資料をたたき台に、労使が合意できる妥当な数値を決めるのも一案です。

  一般には、分配率は低い方が望ましいわけですが、IT化や先端設備導入の企業では低く、人手を要する組立加工型では高くなります。
 努力目標としては、分配率が低下傾向にあり、しかも賃金水準の高い状態が理想的といえるでしょう。

[計算式] 人件費分配率 = 総人件費÷付加価値(額)×100%

2.人的生産性と知識生産性を重視!
 人材と特許、独自ノウハウ、ブランドなど、ソフトな経営資源が再認識されつつあります。それを踏まえながら、生産性の意味と課題を探求してみましょう。

●生産性をどう向上させるか!
 人的生産性は、1人あたり売上高と付加価値率の2つ、または機械装備率と設備回転率、付加価値率の3つの要素に分解することができます。
 ですから、これらの要素を改善すれば、生産性は意図的に向上できることがわかります。

  しかし、3つの要素を一度に改善するのは至難のわざですから、自社の長所短所をよくわきまえ、どこに重点をおいて全力投球するか、優先順位と効果的方法を検討しなければなりません。

  IT化と自動化・省力化を積極的に進め、それをフル活用して稼働率を上げることも一つの選択肢です。
 また、付加価値率の追求には、独創的な商品・技術の開発と、新しい商品や事業分野(ビジネス・モデル)の開拓が望まれます。

 とりわけ、知識や技術は働く人間に蓄積するので、人材能力の育成とコストダウンの両面から、重点対応が必要となるでしょう。

[計算式]人的生産性 = 1人あたり売上高×付加価値率
           = 機械装備率×設備稼働率×付加価値率

・付加価値率=付加価値÷売上高×100%
・機械(労働)装備率=機械設備(額)÷社員数
・設備稼働(回転)率=売上高÷機械設備

●関心が高まる知財の生産性
 生産性のアウトプット(産出)は付加価値ですが、インプット(投入)には、人的資源のほか色々な資産(資本)が考えられます。
 最近は、モノ(商品、設備、空間)などハードな資産から、時間と知識・情報など、ソフトな資産の生産性が注目されるようになってきました。

 一般に、特許や暖簾(営業権)などは、無形固定資産として金額評価されるのが普通です。
 しかし、ブランドや信用格付け、新しいビジネスモデルのように数値化できない知的財産が、簿外(オフバランス)資産として企業価値を高めていることも事実です。

 結局は人的生産性に集約されるものの、それを支える知識(知財)生産性をどう算定するか、今後の大きな課題といえるでしょう。

≪ワンポイント・アドバイス≫

●二つの付加価値計算法 → 控除方式と加算方式
 これまで、売上高から外部購入価値を引いた、控除方式(中小企業庁方式)の付加価値を説明してきました。
 これとは別に、次のような加算方式(日銀方式)もあります。

・粗付加価値=人件費+金融費用+賃借料+減価償却費+租税公課+経常利益(合計6項目)

 付加価値は、社員以外にも株主や銀行、社会など利害関係者へ分配する(資本分配率)ための原資となるものです。
 ですから、これを大きく増やし企業の社会的責任を果たすことが、企業価値向上につながることは言うまでもありません。

●四つの視点で経営バランスを見る → 総合判定
 収益力だけを見て、積極的に拡大路線を突進すると、資金力のバランスはかならず崩れます。
 一方、資金力の余裕にあぐらをかいて改革を怠れば、収益低下とコスト上昇でやがて経営は転落するでしょう。
   
  そこで、収益性と安全性、生産性と成長性の4つのバロメータ(指標)を使い、経営バランスを評価検討しながら会社を伸ばしていくことが大切になるのです。

 ビジネスマンは、計数を羅針盤として素早く舵を切り、リスクと破綻を避けて均衡ある発展へ向け航海して欲しいものです。


(第4回完了)

2008/12/18

損益分岐点と限界利益(分析ポイント講座⑤)

損益分岐点を知っておこう!

1.損益分岐点は経営管理のナビゲータ-

●費用分解から始めよう!
 コストの増減がストレートに利益に反映することは、ビジネスマンなら誰でもよく知っているはずです。 
  そこで、コスト(費用)を変動コストと固定コストに分ける、「費用分解」について考えてみましょう。
 
   売上高や生産高に比例して変わるコストを「変動コスト」、変わらない一定のコストを「固定コスト」といいます。
 流通業なら、売上原価(仕入原価など)は変動コスト、営業経費は固定コストになります。

  メーカーなら、製造原価のうち原材料費(仕入部品をふくむ)と外注費は変動コスト、労務費と製造経費および営業経費(販売管理費)は固定コストと考えます。
 
  このように二つに分けてみると、変動コストは、取引先との交渉や仕入・在庫管理で削減できますが、固定コストは、おもに会社の内部努力で節約するしか方法のないことがわかります。
 コストの性質により、その削減対策も変わってくるわけです。
 
  [計算式] 総コスト=変動コスト+固定コスト

●限界利益をつかもう!
 では、コスト(費用)と利益の関係はどうなるでしょうか。
 管理会計では、売上高から変動コストを引いたものを「限界利益」と呼んでいます。

  この限界利益の範囲内で固定コストを使って入れば、会社が赤字になることはないので、内部管理によく使われる利益です。
 また、商品(部門)別に限界利益をつかめば、それぞれの利益貢献度が正確にわかるため、商品や部門別の採算管理ができます。
 
    限界利益がプラス(黒字)なら問題ありませんが、マイナス(赤字)の商品・部門は全体の足を引っぱるので、戦略上必要性がない限り中止すべきでしょう。

  不採算部門は早く見つけて退治し、利益が少ないときはコスト削減で、とにかく損をしない経営に切り替えなければなりません。
 限界利益をきちんと把握すれば、そうしたシビアな採算管理が容易にできるわけです。

 [計算式] 限界利益=売上高-変動コスト

●損益分岐点を下げ不況耐久力をつけよう!
 限界利益を売上高で割ると、限界利益率が出ます。
 この限界利益率で固定コストを割れば、損益分岐点売上高は簡単に計算できるのです。

   
損益分岐点とは、利益がちょうどゼロになる売上高ですから、会社の売上高がそれより多ければ黒字、少なければ赤字になることを意味しています。
 
   経営環境の厳しいときは、この損益分岐点を下げ、売上げが落ちても赤字にならない仕組みが大切なのです。
   それには固定コストを削減するか、変動コストを圧縮して、限界利益率を大きくしなければなりませんす。

  少ない売上げでも、利益の出る強靭な体質に変わるわけで、決算で減収増益というのは、その努力の成果とみてよいでしょう。

   [計算式] 損益分岐点売上高=固定コスト÷限界利益率
            限界利益率=限界利益÷売上高×100%

2.損益分岐点は色々応用できる

●損益分岐点比率は80%以下が理想的
 管理者が押さえておくべき数字に、損益分岐点比率(分岐点比率、経営安全率ともいう)があります。

  これは不況抵抗力指標ともいわれ、例えば分岐点比率80%なら、赤字転落まで売上高で20%の余裕があることを教えてくれます。
 つまり、あと売上高が20%以上減ると赤字になる、という危険信号の役割を果たす便利な数字なのです。

 この指標は低い方がよく、100%を超えるのは赤字企業です。しかし、黒字でも多くの会社は余裕がなく、90~100%の間でしのぎを削っているのが実状のようです。

  山登りと同じく、辛い汗をかいても分岐点の峠さえ越せば、その先には豊かな展望が開け、心身ともにリラックスできるのです。 
  まずは損益分岐点を征服し、さらに分岐点比率を段階的に引き下げて、ぜひ80%にもっていきたいものです。

   固定コストは、分岐点売上高ですべて回収されるので、それを超える売上高には変動コストの負担しかかかりません。
   そのため、分岐点を超過すると急激に利益が増え、経営はぐんと楽になることを覚えておきましょう。

   [計算式]損益分岐点比率=損益分岐点売上高÷現在の売上高×100%

●分岐点は利益計画にも役立つ
  分岐点は色々と応用範囲が広く、これを使えばコストや利益が変わるときの売上高が予想できます。

  例えば、固定コストに目標利益や借入返済額を加え、それを限界利益率で割れば、利益達成や返済可能売上高が簡単に計算できるのです。
  返済額は毎月(年)一定の支出ですから、固定コストと同様に考えてプラスします。

  設備や社員が増える場合も、増加固定コストと限界利益率を見積もれば、投資採算性を検討することができるでしょう。
  新しい調達先を開拓して原価率が変わったときは、変動コスト率(変動コスト÷売上高×100%)または限界利益率を変えて計算すればよいのです。

[計算式]利益達成売上高=(固定コスト+目標利益)÷限界利益率
       返済可能売上高=(固定コスト+年借入返済額)÷限界利益率

●固定コストは時間比例コスト
  固定コストは、売上高の変化に関係なく一定ですが、その大半は時間に比例して累積するコストです。
 毎月の人件費や家賃は、月々倍増していきます。これを裏返えせば、仕事をスピードアップし納期を短縮すれば、固定コストは節約できるはずです。 
 
   一方の変動コストは、売上高に比例して増減しますが、時間の経過には関係なく一定しています。
  コストダウンは、調達先や仕入条件の変更、在庫費用の圧縮などで、変動コスト率を下げる(限界利益率を上げる)ことが先決といえるでしょう。

  案外気づかないことですが、時間コスト(作業時間や納期など)・空間コスト(店舗面積やバックヤード、倉庫など)と物流費にメスを入れることが、新しい利潤源となるかも知れないのです。 

≪ワンポイント・アドバイス≫

●簡略法でも有益な分岐点分析
 損益分岐点とはどういうことか、だいたい理解できたでしょうか。
 理論的には、コストはすべて変動コストか固定コストに分解できるはずですが、ここでは概算法による費用分解をご紹介しました。

  電話料金でいえば、一般に基本使用料は固定コスト、通話料・パケット料金は変動コスト。交通費なら、定期代は前者で乗車券・回数券は後者というわけです。
 
   人件費については、固定給は文字どおり固定コストですが、歩合給は変動コストになります。
  一口にコストといっても、経費の中身は多種多様ですから、支出の目的や内容をよく考え、会社の実態に合わせて正しく分類する必要があります。

  まず簡単な方法で実践し、それをマスターしてから精密な手法に挑戦するのがよいでしょう。
  詳しくは拙著「一瞬でつかむ経営分析すらすらシート」や「損益計算書の見方が面白いほどわかる本」を参照して頂ければ幸いです。

●限界利益は管理会計のキーワード
   「売上高×限界利益率-固定コスト=(営業)利益」の関係から、限界利益(売上高×限界利益率)が固定コストより大きければ、利益の出ることがわかります。

 ですから、限界利益の範囲内で固定コストを使っていれば、赤字にはなりません。このことは、メーカーの場合とくに重要ですから心得ておきましょう。

 損益分岐点というのは、赤字でも黒字でもなく利益ゼロの状態ですから、限界利益=固定コスト、つまり、限界利益をすべて固定コストに使ってしまったことを意味します。
 
 そのときの売上高は、最初の計算式を換算(固定コストを右辺に移し、両辺を限界利益率で割る)すれば、固定コスト÷限界利益率となることがわかるでしょう。
 これが、損益分岐点売上高の計算公式を導く根拠なのです。

 そのほか、「限界利益=売上高-変動コスト」の両辺を売上高で割ると、限界利益率=1-変動コスト率となります。 
  ですから、分岐点売上高=固定コスト÷(1-変動コスト率)としてもよいわけで、これも計算公式の一つなっています。

 こうして、限界利益を軸として売上高とコストおよび利益の関係を分析すれば、表面的な決算数字ではわからない経営内容が、面白いほどよく見えてくるのです。
  これで、管理会計(直接原価計算)の特徴がわかって頂けたかと思います。

(第1~5回シリーズは完了)

2009/02/14

減価償却と内部留保(分析ポイント講座⑥)

減価償却には費用(コスト)と資金源泉の二つの顔がある

減価償却費は現金支出のない費用(販売管理費または製造経費)

 会社の建物や機械設備は、時間がたてば摩耗し消耗していきます。
 その資産の目減り分(減価)を、設備の耐用年数に応じ費用として会計処理する方法が減価償却です。 
 
原価償却ではなく減価
償却ですから、意味をよく考え言葉を間違えないようにしましょう。

 設備の購入費用は、金額が大きく回収に長い時間がかかります。
 投資の効果は当年度だけでなく、次年度以降の生産・販売(売上)に現れるので、各年度に分けて費用と収益を対応させなければなりません。
費用・収益対応の原則

 
 もし、この費用(コスト)をすべて購入年度に一括計上すれば、その年度は費用が大きく収益を上回り、決算結果はバランスを崩すでしょう。
 そのため、多額の購入費用(投資額)を長期間(税務上の法定耐用年数)に分けて平均化し、各年度の費用(コスト)と収益を無理なく対応させるのです。
 
 B
/S上は設備の金額を固定資産に計上し、減価償却の金額だけ毎年減額していきます。
 P/L上では、減価償却費を販管費(または製造経費)に計上しますが、これはその年度には
現金支出のない費用
なのです。
 代金は前もって、設備購入時にすでに支払い済みだからです。

設備(投資)資金を回収すれば現金(キャッシュ)が増える

 費用は販売活動(売上高)で回収されるので、計算上は、減価償却費に相当する現金(キャッシュ)が手元に残るはずです。
 B/S上は、固定資産の減額分は流動資産の現金増加に変わります。

 つまり、以前支出した費用の一部を、当年度に現金で回収したわけです。そこで、この減価償却費と留保利益をあわせて
狭義のキャッシュフロー(自己金融)ということがあります。

 自己金融は会社が自力で創りだした資金余裕です。
 この資金の範囲内なら、店舗拡張や設備購入は問題ないし、また、安心して借金が返済できる目安にもなります。
 銀行が融資の判断基準として、先ず見極めるのがこのキャッシュフロー(当期純利益+減価償却費)なのです。

 減価償却は、資金源泉となる
キャッシュフロー(回収資本→資金の増加)と見れば大きいほうが望ましく、コストと考えれば負担要因(費用の増加→利益の減少)ともいえるわけです。

 経営が苦しい時は、借入金の返済と減価償却が大きな圧迫要因となることは事実です。

 しかし新しい設備投資により、将来は費用を上回る大きな収益(投資リターン)が期待できるでしょう。

 また儲かる企業では、割増償却(政策的な優遇制度)や有税償却(税負担をともなう超過償却)を積極的に行うケースもあります。

 元気印の会社と不振企業では、それぞれ対応の異なる減価償却の二面性がご理解頂けたしょうか?

≪ワンポイント・アドバイス≫

●内部留保はコストのかからない理想的な追加資本

 他力本願ではなく自力によるもう一つの資金源泉は、利益の内部留保です。
 税引後の当期純利益は、その一部を株主配当や自社株購入のために分配し、残りは社内留保(利益剰余金)して純資産(自己資本)を追加拡充します。

 会社が自己資本を増やすには、
内部留保によるか資本金を増資
するほかに方法はありません。
 しかも、株式増資は配当金という資本コストがかかりますが、内部留保はコスト不要の追加資本です。
 ですから内部留保は、自己資本を蓄積するもっとも望ましい姿といえるでしょう。

 他人資本(負債)依存型の会社は、何よりも先ず外部流出を抑えて内部留保を積み増し、財政基盤を固める必要があります。
 不況抵抗力をつけるにせよ新事業分野へ進出するにせよ、先立つものは資金力ですから、資本蓄積を第一に心掛ける経営が大切なのです。

  もちろん、一定の配当金は株主に対する経営責任であり、その目標達成は至上命題です。
 また最近は、企業理念として経営成果の社会還元も求められています。そうした社会的課題にも、前向きに取り組むことはいうまでもありません。

キャッシュフロー会計には減価償却はない

 なおキャッシュフロー会計は、現金(キャッシュ)の流出入をそのまま記録し計算するため、減価償却の方法は行いません。
 多額の設備資産であっても、購入した時に一括してキャッシュ支出を計上すればよいのです。
 この会計では、費用・収益対応の原則は適用されないわけです。
 会計制度が違えば、原理原則も変わることを知っておきましょう。

(第6回完了)

2009/02/20

付加価値のつかみ方(分析ポイント講座⑦)

付加価値をどうつかむか?

●『控除方式』は生産面から付加価値をつかむ

  生産・販売活動を通して、新しく創造した価値が付加価値です。
 一方、外部から受入れた財貨・サービスの価値を外部購入価値(前給付原価)といいます。
 控除方式は、売上高から外部購入価値を引いて、付加価値を出す方法です。

 「売上高=外部購入価値+付加価値」の関係から誘導して、
・付加価値=売上高-外部購入価値

  そこで、何を外部購入価値と考えるかにより、付加価値の定義は広義、中間および狭義の3つに分けることができます。
 一般的には広義の付加価値を使用しています。

 外部購入価値とは:
 
A.直接材料+買入部品+外注費+間接材料+仕入商品(→広義の付加価値=売上高-A)
 B.燃料・動力費+水道光熱費+修繕費+減価償却費を含む(→中間の付加価値
=売上高-A-B)
 
C.運賃・保険料+保管・倉庫料+旅費交通費+通信費+広告費+雑費を含む(→狭義の付加価値=売上高-A-B-C)

 簡便法では、流通業は売上原価を、製造業は原材料費+外注費を外部購入価値とみて、売上高からこれらを引き付加価値をつかみます。
 

  そのほか、変動コストを大まかな外部購入価値と考え、限界利益≒付加価値とする方法も便宜的に使われているようです。変動コストと限界利益については、損益分岐点の解説を参照してください。

 実務的には、勘定科目の支払内容をよく吟味し、自社のマネジメント(経営管理)に役立つ適切な方法を選ぶことになるでしょう。

 一方、付加価値は商品・サービスを販売してはじめて実現する(売上高基準)と考えられます。
 ですから、売上高ではなく生産高から外部購入価値を引く方法(生産高基準)はとりません。生産高基準による場合は、付加価値ではなく「加工高」とよぶのが普通です。

 商品・製品は、在庫として滞留する限り付加価値は生まれないので、在庫高の増減は無視して付加価値を計算します。
 これは、決算会計の損益計算(在庫増加は資産・利益になる)とは異なる管理会計の考え方といえるでしょう。

●『加算方式』は分配面から付加価値をつかむ

  加算方式は、付加価値を構成する各勘定科目の金額を合算する方法です。
 

・付加価値=①人件費(労務費・福利厚生費を含む)+②賃借料+③金融費用(支払利息・割引料)+④租税公課(法人税を含む)+⑤減価償却費(販管費明細書と製造原価報告書)+⑥当期純利益


 ほかに、その他の経費(支払手数料など)を含むこともあります。
 利益の種類については、税引後の経常純利益(
経産省方式の粗付加価値)、経常利益(日銀方式の粗付加価値)または営業純益(財務省方式の純付加価値)をそれぞれ採用しています。
 中小企業の経営管理には、税引後当期純利益や営業利益を使うのが普通です。

  また、減価償却費は機械設備などの資本消耗ですが、これを含む場合を「粗付加価値」、除く場合を「純付加価値」と呼ぶことがあります。

 当期純利益は、株主配当と自社株購入および内部留保の源泉ですから、付加価値は大きいほうがよいのは当然です。
 
しかし利益を度外視して、人件費や賃借料、税金などの経費だけにこだわると、経費は少ないほうがよいから付加価値も小さいほうがよい、または、付加価値が大きいから経営が苦しくなる、との誤解を招くので注意しなければなりません。

   付加価値の構成要素には統一した定義がないため、自社の事業内容から判断してマネジメントに有益なら、独自の項目を自由に追加しても何ら差しつかえはないわけです。

 ただし、統計資料を利用するときは、前もって注釈から付加価値の意味と範囲をよく理解しておく必要があります。

≪ワンポイント アドバイス≫

中小企業庁の統計は控除方式から加算方式に変わった
 
今までは控除方式を「中小企業庁方式」、加算方式を「日銀方式」と呼んできました。
 しかし平成17年版「中小企業の財務指標」から、中小企業庁(経済産業省)も加算方式を採用しています。
 平成16年まで長い間使われてきた「中小企業の経営指標」は控除方式でした。マネジメント的アプローチの経営指標に対し、財務指標では会計的アプローチに変わったと考えてよいでしょう。

付加価値から生産性をつかむ
 人的生産性(労働生産性)は、上記の付加価値額を従業員数で割って計算します。また、1人1時間(日)あたりの生産性は、付加価値額を従業員数×1人平均稼働時間(日数)で割れば算出できます。

 人的生産性とは別に資本生産性を見ることもあります。一般には、上記の付加価値額(分子のアウトプット)を固定資産額または機械設備額(分母のインプット)で割って計算します。何を分析するかの視点により、分母となる資本の内容は変わるわけです。

(第7回完了) 

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