儲けとコストの分析(分析ポイント講座①)
会社は本当に儲かっているか!
1.儲けを数字で正確につかもう
会社の目的は、社会的責任を果たしながら、事業目標を実現することです。
それには、「一定の必要利益」または「満足水準の利益」を稼がなければなりません。赤字がつづけば、会社は存続することができないのです。
そこで先ず、誰もが知っている利益率の話からはじめましょう。
●儲ける力はあるのか → 売上総利益率
商売の世界では、売上高は見かけの稼ぎで、そこから仕入原価などコストを支払った残りの売上総利益(粗利益ともいう)が実質の稼ぎです。
ですから、販売数量や売上げではなく、粗利益を柱にすえた経営に方向転換しなければなりません。
この粗利益は、人件費や家賃など営業経費(販売管理費)の原資となるものですから、まずこれをしっかり確保することが先決です。
売上総利益率=粗利益÷売上高×100%
●営業活動の成果を見る → 売上高営業利益率
粗利益の次に大事な利益が営業利益です。これは、会社の本業による儲けを表しています。
本業が赤字なら経営者失格といわれても仕方ないでしょう。粗利益が十分稼げない昨今では、経費削減の内部努力(リストラ)によって、営業利益を絞り出す工夫が大切なのです。
売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100%
●事業活動の結果を見る → 売上高経常利益率
会社の活動には、本来の営業活動のほか金融活動もあります。雑収入や支払利息など営業外収支を加減した儲けが経常利益です。
借金依存体質の会社は、せっかく稼いだ営業利益の大半が支払利息で消えてしまい、赤字に転落するケースが多いので要注意です。
売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100%
2 会社のコストを知ろう
●適切なコストに抑えているか → 売上原価率
第一のコストは、売上原価です。
粗利益を大きくするには、売上げを伸ばすか、売上原価を下げるしかありません。原価(コスト)をどう合理化し、削減するかが緊急の課題になるわけです。
流通業では、売上原価=期首在庫+当期仕入高-期末在庫ですから、在庫もコストに関係してきます。
製造業では、売上原価=製造原価となり、これは原材料費+外注費+労務費+製造経費を合計したものです。
[計算式] 売上原価率=売上原価÷売上高×100%
別の見方をすれば、売上原価率=100%-粗利益率となります。
●経費は多すぎないか → 販売管理費比率(営業経費率)
第二のコストは営業経費です。
典型的な放漫経営といえば、経費の膨張と在庫の増加、さらに売掛金の拡大というのが通例です。これは利益を圧迫し、資金繰りを苦しめる元凶ですから、気を緩めてはいけません。
営業利益を確保するには、売上げ拡大よりコスト削減のほうがはるかに効果が大きいのです。同じ利益を出すには、コストの何倍もの売上高を増やさなければならないからです。
[計算式] 販売管理費比率=販売管理費÷売上高×100%
●適正人件費はいくらか → 売上高人件費比率
人件費は給料・報酬のほか福利厚生費も入れた総額です。これに、教育研修費や募集費を加えることもあります。
「事業は人なり」といわれるように、企業の成長は最後は人材が勝負ですから、少数精鋭による高能率・高賃金を目指したいものです。
[計算式] 人件費比率=人件費÷売上高×100%(流通業)
=人件費÷生産高×100%(製造業)
製造業では、人件費(販売管理費)と労務費(製造原価)
の合計、また生産高=売上高-製品仕入高。
3 分析結果はこう読む
これまで会社の損益計算書の骨組みにあわせ、売上高に対する3つの利益率と3つのコスト比率を見てきました。
実際にあなたの会社の比率をそれぞれ計算し、次のように比較してみましょう。その実力や位置づけがわかってくるはずです。
・過去の実績(前期、前々期)と比べる(期間比較)
・目標・計画の数値と比べる(目標・実績比較)
・業界の平均指標と比べる(標準比較)
・同じ時期の他企業と比べる(相互比較、ベンチマーク)
経営活動はかならず、稼ぎ(売上げなどの収益)-コスト(売上原価、営業経費などの費用)=儲け(3つの利益ほか)を計算し、後始末をつけることになっています。これが会社の決算です。
儲けを確実なものにするには、稼ぎをいかに増やしコストをどう減らすか、創意工夫と才覚が肝心なのです。
各分析比率から自社の長所と短所を浮き彫りにし、優先順位を決めて重点的に改善策を検討しましょう。
≪ワンポイント・アドバイス≫
●一人あたり利益額もあわせて見る
低価格大量販売では粗利益率が低く、独自開発のブランド品やファッション商品なら、利益率の高い商売ができるでしょう。
しかし、市場が成熟し競争が激しくなると、利益率はやがて低下するのが普通です。
そこで利益率とあわせ、社員一人あたりの粗利益額(生産性)が問題になります。
利益率より利益額を重視する、いわゆる薄利多売型のビジネスもあるからです。
●原価率の低いビジネスに変えよう
材料を加工販売する惣菜小売業や飲食業は、一般の物販業に比べると原価率が低いため、かなり高い粗利益率の商売をすることができます。
また、サービス業のように仕入原価の少ない業態では、売上げの大半が粗利益になるので、粗利益率は50%を超えるのが普通でしょう。
廃業する製造業や小売業が増える一方で、今、情報通信と医療福祉、教育・学習支援などのサービス分野では、盛んに企業が増えているのです。
●粗利益-営業利益=販売管理費に注目する
粗利益の獲得は、事業戦略やマーケティングの適否を反映します。
もう一方の営業利益は、経費削減などおもにマネジメントの問題といえるでしょう。
なお、経営比率の見方や業種別平均値(中小企業の財務指標)については、拙著「一瞬でつかむ経営分析すらすらシート」に詳しく解説しています。

