経営指標

2008/05/21

「中小企業の財務指標」の特徴①(サービス業種が充実)

・標本数は大幅増加、各種サービス業の指標が充実

 今月出版した『<一瞬でつかむ>経営分析すらすらシート』(㈱中経出版)は、読者が計算した経営比率を業界平均と比べられるようになっています。

業界平均は、平成19年版「中小企業の財務指標」(中小企業庁編、中小企業診断協会発行、同友館発売)から直近3ヵ年平均を出して掲載しました。

 従来の経営指標(標本約8千社)は平成16年に完結し、17年から財務指標(標本約82万社)に変わったためです。

 標本数が大幅に増えるとともに、指標の種類も30項目から40項目に拡大、キャッシュフローや付加価値の分析比率が加わりました。

 業種別では、これまで不足していた情報通信と運輸、不動産、医療保険などのサービス業種関連データが充実したといえます。

 経済のサービス化にともない、各種のサービス業が進出展開しているので、活用範囲はさらに広がることが期待されます。

・標本企業の平均像は小型化し財務内容は低下

 上位の中小企業にシフトしたこれまでの経営指標とは違い、財務指標の標本は平均的に小規模化し、低水準の指標が少なくありません。

 例えば、建設業の平均従業員数は経営指標34人→財務指標19人、製造業は同じく60人→48人、卸売業は46人→28人となり、明らかに小型化しています。ただし、小売業は逆に16人→27人へと拡大しました。

 財務指標の原本には、4段階に分けた従業員数区分都市区分(流通業向け)のデータが出ているのですが、残念ながら紙数の関係で著書には詳細は盛り込めませんでした。

 また自己資本比率など、一部に低水準の数値が目立ちますが、これは大量のデータを「中小企業信用リスク情報データベース(CRD)」に頼るためと考えられます。

 おもに金融が主眼の信用情報ですから、財務内容(資本構成)に問題のある企業データが多く蓄積されるのは当然でしょう。

 中小企業庁では、財務指標の概要版をホームページで公表しています。

2008/06/10

「中小企業の財務指標」の特徴②(業種・規模別データ)

・業種別と規模別のデータが利用できる

 財務指標は、業種別規模別に分けて数値を掲載しています。

業種は大分類9業種、中分類70業種および小分類115業種に区分し、かなり細かいデータを公表しているのです。

また、それぞれ業種分類に合わせ、従業員規模別の指標を四段階(5人以下、6~20人、21~50人、51人以上)に分けて算出しています。

 しかしそれでも、決算書の数字から計算した経営比率が、中分類の数値(著書に掲載した財務指標)とかけ離れて比べられない場合があります。

その時はどうすればよいか、指標の使い方についてご説明しましょう。

まず、中分類業種の中で規模別(流通業は地域別もある)データを利用できないか調べてみます。

さらに小分類業種と規模別の指標から、比較可能なデータを探さなければなりません。

ただし細分化すれば、調査対象の標本(サンプル)数は少なくなります。

 こうした仕組みを知るため、「売上総利益率」の例を小売業と製造業、情報通信業について見てみましょう。

小分類と従業員数から使えるデータを探す

①まず業種別に、小売業(大分類)の売上総利益率は33.8%[標本数111,483社]→例として飲食料品小売業(中分類)を見ると32.6%[18,665社]→例として菓子・パン小売業(小分類)は52.3%[1,548社]→さらに規模別に従業員5人以下の区分を見ると53.0%[930社]、というように細分化できるのです。

製造業(大分類)の売上総利益率は35.7%[標本数172,315社]→例えば出版・印刷関連(中分類)は44.4%[15,321社]→例えば印刷業(小分類)は41.0%[9,199社]→従業員5人以下は48.4%[4,216社]。

情報通信業(大分類)の売上総利益率は61.4%[標本数12,290社]→例えば情報サービス・調査業(中分類)は62.1%[10,828社]→ソフトウエア業(小分類)は60.7%[6,933社]→従業員5人以下は64.7%[3,258社]。

 細分化すると財務指標の数値が大きく変わる小売業、あまり変わらない情報通信業、その中間的な製造業というように、それぞれ業種系列の特徴がよく見えてきます。

 標本数の変化にも注目しながら、どの区分の数値が最も近似して参考になるかを調べて選ぶわけです。

「中小企業の財務指標」(中小企業庁編・同友館発売)は安価(約640頁、@2,500円)なので、経営コンサルタントを目指す人は入手すれば便利でしょう。一般の人は、業界団体(商工会議所、商工会など)の資料室や図書館(本書の有無を確かめる)で閲覧する方法もあります。

2008/06/11

「中小企業の財務指標」の特徴③(規模別格差の概要)

 大分類業種の規模別指標を概観して、小規模企業と上位規模企業の違いや規模による格差を浮き彫りにしてみました。

小規模は売上総利益、上位規模は営業利益に強い

 売上総利益率は小規模のほうが良好ですが、経費(販管費)が多くかかるため、営業利益率は低水準に落ち込んでいます。

 ただし、小売業と飲食業は総利益率の規模格差がほとんどなく、小規模の営業利益率の低さが突出しています。

 総利益率の規模格差が大きいのは、製造業と情報通信業、運輸業で、小規模は上位規模の2倍近く稼いでいるのです。

これは、便利性提供や機動力発揮、加工販売の人的サービスで付加価値を上げ、総利益を確保していると考えられます。

今後の課題は、生産性の向上と経費の有効活用により、営業利益を改善することでしょう。

 一方の上位規模は、大口受注と競争激化による総利益の低下を経費合理化で補い、辛うじて営業利益を絞り出している姿が想像されます。

 以上を要約すれば、<売上総利益率>小規模→高い、上位規模→低い。<営業経費(販管費)>小規模→大きい、上位規模→小さい。その結果<売上高営業利益率>小規模→低い、上位規模→高い。

・小規模は自己資本充実が緊急課題

 会社の足腰の強さを見る自己資本比率は、全業種で上位規模のほうが大きく、小規模では過小資本が目立ちます。

 この比率が30%前後で良好なのは建設業、製造業、サービス業および情報通信業の上位規模です。

規模格差が大きいのは、建設業と製造業、小売業と飲食業で、これらの小規模では自己資本の充実が緊急課題といえるでしょう。

 自己資本不足は、裏を返せば借入依存体質を意味します。

 借入依存度(借入金/総資本比率)が特に大きいのは、小売業と飲食業、製造業の小規模で、小さく良好なのは建設業と卸売業、情報通信業の上位規模です。 

 過小資本は、経営の自立性を損ない、有利子負債によるコスト圧迫で営業利益を食いつぶします。そのため、計画的に自己資本を拡充することが大切です。

 利益体質への転換と資産リストラによる減量経営、そして増資など有効な戦略の建て直しが欠かせません。

 以上を要約すれば、<自己資本比率>小規模→△3~13%とかなり低い(情報通信業20%を除く)、上位規模→20~30%(飲食業16%を除く)。目標値としては30%以上が望ましい。

・総資本利益率の良否は経常利益の影響が大きい

 総合的に収益力を見る総資本利益率ROI)は、上位規模で2.3~5.0%、小規模で△0.1~3.0%と各業種別に拡散しています。

 良好なのは情報通信業とサービス業、製造業で、低水準なのは建設業と小売業、飲食業です。

 規模格差が大きいのは小売業と飲食業で、情報通信業も全体としては高水準ながら格差が開いています。

 総資本回転率(資産の活動性)は顕著な違いはないので、この総合指標が良いのは、売上高経常利益率が良いためです。

 以上を要約すれば、<総資本利益率>小規模→低い、上位規模→高い。

売上高経常利益率>小規模→低い、上位規模→高い。総資本回転率は格差がないから、経常利益率の良否が総資本利益率に直接影響する。

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